Blue willow のある食卓
ーEveryday with Bluewillowーー
キッチンに立つと、心が凪ぐ。 相変わらず、実験室のような小さなキッチンだが いかに気持ちよく過ごせるか、 試行錯誤するのが楽しい。 前々回、ジャムの文章を引用した平松洋子氏に キッチンについて、次のような記述がある。 「家族が寝静まった深夜、煮物をしながら鍋の前においたスツールに腰掛けて本を読んでいると、 自分で掘った雪洞のなかに籠ったような安堵を感じる。 広くても狭くても、 道具が多くても少なくても、 人それぞれ、家それぞれ。 ただ、この場所こそ私のコックピットです、 と思えることが大事なのだと思う」* 「大切なのは、この場所こそ私のコックピットです、と思えること」 なんて素敵な一文だろう。 食のジャーナリストでありながら ご自身のキッチンは「立つスペースはわずか一畳足らず」という平松氏だが その世界の広さ、思考の柔軟さたるや 何を読んでもしっくりくるのは 根底に流れている大切なことに、共感できるからかもしれない。 いつか振り返ってみる時、 どんな気持ちがするだろう・・・ そう思わずにはいられないほど、 元号が変わった今年の初夏は、 目まぐるしいものだった。 さしずめ「乱気流」といったところか。 でも、どんな日々であっても、何があっても キッチンは暮らしの中心であり、 家族の日々の運行を司っていることに変わりはない。 だから、昨日も、今日も、 そして明日も、 私は、私のコックピットに居る。 今夜は、小さなキッチンで大きなミートローフを焼きました。 結婚するより前・・・ということは20年以上も前、 母が購読していた「きょうの料理」のテキストで知って以来、 ずっと作り続けている定番。 長く作り続けている料理には、 それだけの思い出が重なっていくものです。 醤油、パイナップルジュース、杏ジャム、クローブを煮詰めて作る 甘酸っぱいソースに 新たな思い出も加わって。 *出典は忘れてしまいましたが、 コピーが手元にあり、 時折、読み返しています。 (2019. late spring) 四年生最初の参観日は、国語の授業。 「これはレモンのにおいですか。」 というフレーズで始まる、 あまんきみこ作の「白いぼうし」だった。 子供同士が同じクラスになったことで 久しぶりに顔を合わせる私自身の友達も。 「やっ!生きてた!?」 「ふふ」 片隅で、しばし母談義。 子育てに、迷いや悩みがない人はいない。 結局、母親にできるのは、 子供のありのままを受け容れること。 つまるところは、それしかないのかもしれない。 話しながら、そんなことを考えた。 ありのままを受け容れる、 今更のようであり、でも、 簡単なことでは決してない。 多くは語らない。 深刻になるわけじゃない。 「近いうちにお茶しよう」は 多分、そう近くはないだろう。 でも、ひとしきり聞き、ひとしきり話し、 最後は、笑いで〆。 学校を後にする私の足取りは軽く、 心は幾分、しなやかだ。 夕 夕方、宿題の「白いぼうし」の音読を始めた息子の傍で マフィンに添えるレモン風味のチーズクリームを作る。 ふわっと、とレモンが香りたち 「白いぼうし」を読んだときのような やさしく、なつかしい気持ちに満たされる。 (2019.4.17) 春が巡ってきたならば せめて一度は作りたい・・・ 仕事中からずっと考え、 あそこなら、きっと! 終業と同時に商店街の青果店へ急いだ。 やっぱり! ジャム作りにふさわしい小粒の苺が ありがたいお値段で積まれている。 箱買いしちゃいたいけれど、自転車ではちょっと無理だなあ。 2パック購入して おじちゃんからお釣りを受け取ると、 先代さんかしらん。 店先の簡易椅子に腰をかけていたおばあちゃんからも 「ありがとうねえ」 笑顔を受け取った。 小学校の参観日で 明日はお休みをとっているから 平日だけど、今夜は余裕! じっくり、ゆっくり、ジャムを煮よう。 苺ジャムは煮ている時間がすでにご馳走だから じっくり、ゆっくり、味わおう。 「ジャムは夜ふけの静けさのなかで煮る。 世界がすっかり闇に包まれて、しんと音を失った夜。 さっと洗ってへたをとったいちごをまるごと小鍋に入れ 砂糖といっしょに火にかける。 ただそれだけ。 すると、夜のしじまのなかに甘美な香りが混じりはじめる。 暗闇と静寂のなかでゆっくりとろけてゆく果実をひとり占めにして、 胸いっぱいの幸福感が満ちる。 ぜんたいがとろんとやわらかくなったら、 仕上げにレモンをほんの数滴。 火を消して、そのまま。 翌朝、すっかり熱がとれ、 艶やかに光り輝くジャムが生まれている。 さあ、できたてのジャムをつけてかりかりのトーストを囓ろう。 昨夜の鍋のなかが秘密の夢のように思われて、 ほんの一瞬、くらくらする。 だから夜中にジャムを煮る。」* 一夜、明けたら バタートーストに苺ジャムをのせて 春だけの至福。 庭のカリンもすっかり花盛り。 *引用 「夜中にジャムを煮る」 平松洋子 (新潮文庫) (2019.4.16) み |