英国小景
Gold Hill
何度も、何度も 切り取られた風景がある。
繰り返し、繰り返し、
このアングルで、この風情で、この佇まいで。
ゴールド・ヒル、
ドーセット州の小さな町 シャフツベリーにある
石畳の急な坂と 軒を連ねる古い家々。
はるか遠くには やわらかな緑の田園。
何度このシーンを目にしてきただろう。
写真集で、旅行書で、パンフレットで。
ゴールド・ヒルはいつも
このアングルで、この風情で、この佇まい。
飽きるほどに それらを見ていながらも
しかし 心に決めていた。
いつか自分の目でこの風景が見てみよう、と。
自分の足でこの丘に立ってみよう。
夕暮れの冷たい風が吹きつけて
背の高い石壁さえも それを遮ぎることはできない。
足早に家路をたどる土地の人々に
ここに日々の営みがあることを知る。
坂を上って、坂を下る
生活という名の日常があることを知り、
なぜだろう、
旅行者としてここにいることに
少しばかりのためらいを覚えずにはいられない。
それはさながら
ローカルパブに足を踏み入れる時にも似た気持ち。
どこか祈るようなつつましさを胸に
一歩一歩 鉛色の石を踏みしめる。
どうか彼らの時間に波風をたてていませんように・・・
どうか 彼らの空間をかき乱してしていませんように・・・
坂の手前に 一軒の時計屋さん。
窓からそっと覗き込み、
時が止まったようなこの坂で
きちんと時計が動いているのかどうか
確かめてみたい。
今という時間と
ここにいる自分とが
本当に存在しているものなのかどうか
確かめてみたい。
時が止まったような 憧れの坂の町。
Shaftesbury 2000