英国小景
そんな、風
いつか見た光景、という気がする。
葉を茂らせたの大木にロープでくくりつけられたブランコ。
ブランコが揺れる道になんだか手をつなぎたくなる。
Hello
すれ違いさまに声をかけてきた若者は
先ほど村の店で出会ったカップルだ。
村で唯一のその店は これすなわちなんでも屋で
肉や野菜、缶詰といった村人の日々の糧から
文房具に大工道具、タブロイドを含む新聞数種
(派手な写真つきのゴシップが踊る大衆紙こそが
この村がちゃんと世界から取り残されてないことを証明してくれる
唯一のものなのだ、実際。)
そしてこの手の店によくあるように 郵便局をも兼ねている。
だからして 決して広くない店の中は
数人入ると いっぱいになってしまい、店内の移動さえままならない。
若者二人連れには その店の中で会ったのだった。
彼らも私たちもアイスクリームを 手にしていた。
こってり甘いキャラメル入りの アイスクリームを。
Hello
手をつないだまま 私たちも答える。
その瞬間 彼はにやりと笑い
自分もパートナーの手をとった。
確かに、とこちらも笑い返す。
ブランコは揺れていて
そこには確かに手をつなぎたくなる風が吹いていた。
Drewsteignton 1998