英国小景
夏はゆふぐれ
夏、夕暮れどきに
イギリスの町を歩いていると
腕時計の時間と
目の前に流れている時間とに
微妙な時差が生まれることが よくある。
いつまでも暮れない水色の空に
ゆるゆると時は漂い
やがて 私は腕時計の読み方を忘れてしまう。
そこには確かに
特別な時間の流れがあるのだ。
夏はゆふぐれ。
バースのそれは とりわけ素敵。
町はずれなら なおのこと。
軒先の花々を愛で、
雑貨屋で林檎を買って、
エアメイルをポストに入れて。
歩き疲れて宿に帰ると
少しずつ色を失いはじめた夕空に
気球がひとつ、浮かんでいた。
Bath 1998