Blue Willow のある食卓 vol.16
どんなものと合わせても
いつも新鮮な驚きをくれるブルーウィロウ。
はっとさせられる瞬間を
暮らしの中から切りとって。
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玄関のチャイムがなり、インターフォンのモニターごしに、彼女の姿を見た時から 実は、あまり記憶がない。 大丈夫だとか、家族はとか、落ち着いたらね、とか。 そんな事を話したような、しないような。 気が付くと、私は彼女がくれた二つの柚子を持って立っていた。 新潟の実家から届いた楽しそうな葉書には 岡山に戻ってくる予定を、数日遅らせることにした旨書かれていた。 故郷を遠く離れたこの地に嫁いだ彼女にとって 久しぶりの帰省は、特別な毎日だったに違いない。 「明日は、海までピクニック・・・」 文面が笑っている。 その、まさに明日という日、新潟で大きな地震が起きた。 葉書の住所を辿ってみて、冷や汗がでる。 書いても無駄と思いながらも、メールを打たずにはいられない。 誰だってそうだと思うけれど、私は地震が恐い。 恐くて、恐くて、たまらない。 阪神大震災の恐怖が 未だ抜けないのだ。 ほんの少し揺れただけでも、心臓は大きく波打つ。 誰もが気づかないような揺れにも、体が敏感に、 異常なまでに敏感に反応する。 地震のことを思い出すと、常に揺れているような気持ちさえして 目眩のように、くらくらとする。 震源を遠く離れた京都で地震を経験した私でさえ そうだ。 あれから10年経っているというのに、そうだ。 直にその恐ろしさにさらされた人達のことを思うと その心の傷は想像に余りある。
避けることのできない天災は、本当に恐ろしい。 人間や、人間の築き上げてきた物は 自然の前でかくももろいのか、とやるせない思いに胸を焼かれる。 けれども。 けれども、それでも人々は、知恵を出し、力を尽くし、 たったひとつの奇跡にかける強さを持っている。 一歩一歩でも、明るい道を探り歩く強さを備えている。 涙を超えたところにある、その1つの事実に 私はただただ胸を打たれ、励まさされるのだ。 そして、今の自分にできることは何だろう・・・ 何かに突き動かされるように、考える。 誰にだって、何かしらすることはできる。 「1人の百万ポンド寄付よりも、百万人が1ポンドずつ」 英国ナショナルトラストの思想です。 お金や物資、それから助け合う気持ち。 それぞれが、それぞれに持ち寄って 大きな力になるならば! 数日後、新潟から無事を知らせるメールが届き その数日後、彼女は我が家の玄関に姿を見せた。 ただ驚き、ただ嬉しくて 私はどんな会話をしたのかも覚えていない。 なぜ彼女からそれをもらったのかも分からないまま 気が付くと、柚子を持って立ちすくんでいた。 眩しい朝の光が注ぐキッチン。 ウィロウの上で、何事もなかったようにのんびりと柚子は香り 流れてくるニュースは、依然 厳しい。 現実を乗り越えてゆきたいと思う。 希望をつないでゆきたいと思う。 (2004.10.30) |
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手を触れてもいいですよ、と言われ その古めかしく 重い書物を開いては見るけれど 膨大なページ数に、ひたすら連なる文字。 特別な感慨が沸くというわけでもない。 むしろその厚み、存在感に 自分とそれらの距離を再確認するくらいだろうか。 米蔵を改造したティールームギャラリー。 あちこちに展示してあるのは、古い聖書だ。 さっと一巡すると、壁際の小さい丸テーブルに座った。 白髪の後ろ姿の女性が二人、視界に入る。 二人揃って、紺色のスーツ。 椅子に置かれたショルダーも 二つ揃って黒く四角い。 ごく、控えめな装いだ。 同席しているらしい他国の方達にも話されているのだろう。 ドイツ語訛りの英語が、時折、こちらの席まで聞こえてくる。 それは 決して流暢ではないけれど ゆっくりとフォーク動かし、コーヒーを味わいながらの とても心のこもった話しぶりで そこから生まれている言の葉たちが 場の空気を、温めているようにも感じられた。 やがて 私達のテーブルにも同じケーキが運ばれてきた。 飾り気のない、ごくシンプルなケーキ。 その堅実な感じが 目の前の二人の女性の印象とどこか重なる。 10月1日。この日より 倉敷で、公開ゼミナール「バッハの学校」〜バッハと聖書〜が始まった。 講義やリサイタルはじめ、興味深いプログラム。 聖書をほど遠く感じる私なのに バッハの音楽に これほどの親しみと安らぎを覚えるのはなぜだろう。 ごく個人的、感覚的な音楽とのつき合いの中に 理論の風を入れることで、何か新しい発見があれば嬉しい。 できる範囲で、私もこのプログラムに参加したいと思う。 帰り際、ティールームギャラリーのオーナーさんは あのお二方が、ゼミナールで教鞭をとられる方なのだと教えてくださった。
ようやく焼き菓子の美味しい季節がやってきましたね。 ウィロウも張りきって登場です。 実は ティールームギャラリーでのケンジツなケーキは そのほとんどを娘に食べられてしまったので、 近所の洋菓子店で買ってきた、栗の入ったバターケーキで 夜中にこっそりリベンジ!? BGMは もちろんバッハ。 バックハウスの演奏で、イギリス組曲、フランス組曲はじめ 端正で優美なピアノを・・・ それにしても、こういう一見なんてことのない焼き菓子ほど 自分で作るものと、プロとの差が歴然ですね。 見た目も、味も、似ているけれど、絶対に違う。 見えないところで、プロの堅実な仕事がなされているということでしょう。 (2004.10.2) |