Blue willow のある食卓
ーEveryday with Bluewillowーー
いつのまにか、夜は鈴虫の音に囲まれている。 夏の盛りには、その存在を思い出すことさえなかった ほっこりと香ばしい口当たりが ふいに恋しくなり お久しぶり、とばかりに 買い物の途中、贔屓のほうじ茶を一袋、カゴに入れた。 晩夏は、どことなく無口を誘う。 ひと夏の疲れ、いくつかの思い出、眩しくも勢いの衰えた日差し。 そして、終わりの安堵感と一抹の淋しさ、のようなもの。 夏が 勢いのあるエネルギーに満ちた季節だからこそ、 その終わりは、こんな複雑な寂寥感を伴うのだろうか。 そんなことを考えながらの、帰り道。 小さなブーケに目が留まった。 晩夏、というより初夏の色合い。 売れ残りのサマーセール品を除けば、 秋の色で彩られ始めた町の中にあって、 それは、はっとするほど瑞々しく、目に染みた。 その明るさと清涼感が 晩夏のだるさとほてり、そしてメランコリーを、 ひんやり鎮めてくれそうで。 ほうじ茶とブーケを抱えて 夕風の吹き抜ける住宅地をゆく。 新しい季節と去り行く季節を共に連れて、家路を急ぐ。 (2004.8.24) |
ロンドンはピカデリーにあるHatchardsは 1797年創業という老舗の書店。 王室御用達にもなっていて 木造の店舗は、どっしりとした風格を備えています。 帰路、重いことは分かっていたのに この店で見つけて、どうしても買わずにはいられなかった三冊の本。 それが 英国の‘野花、樹木、野鳥’についての図鑑です。 なんといっても、絵が素晴らしい! 対象に忠実に描かれた植物や鳥を見ていると 自然の造形はこんなにも繊細で、美しいということに ため息がもれてしまうほど。 葉っぱ一枚一枚にも、その色や形、生育地や歴史など 個性があり、物語があり その奥深さは 神秘的とも思えます。 一度開くと、しばらく目が離せないお気に入りの図鑑。 正直に言うと、これまでは図鑑として活用するよりも 画集として楽しむことが多かった三冊ですが 近頃、本来の役割も少しずつ果たしてくれるようになりました。 例えば、クランベリーが入っていたフルーツグラノーラ。 この赤い実は?とたずねられるや否や、 それきた、とばかり、これを取り出してきます。 実物そっくりに描かれた絵を見て、ちょっとばかりお話して。 そして、ストロベリーに始まり、ブルーベリー、ブラックベリー、カウベリー ラズベリー、スノーベリー、ビルベリー、クロウベリー・・・・ ベリー類だけでもこんなにあるんだねえ。 娘がグラノーラに戻っても、私はしばらく本の世界です。 どっさりのポテトだって、茹でただけの野菜だって、どんとこい! 評判のよろしくない英国料理も もりもり たいらげる私です。 ・・・・でも、実はシリアルだけは苦手。 B&Bの朝食時も、こればかりは遠慮します。 したがって フルーツグラノーラも、食べるのは万蔵氏と娘のみ。 シリアル好きの父に似たのか、 さくさくさくさく、勢いよく食べたかと思うと おもむろにウィロウを持ち上げて牛乳もぜ〜んぶ、飲み干した娘。 それはいいけれど、お嬢さん、腕にシールがついていますよ! (2004.8.20) |
美味しい‘かしわめし’を作るために必要なもの。 |
「ママと一緒に パンやさんに行くお話だよ」 いつもそんな風に前置きをして、しばらく表紙を眺める。 パン屋さんに入ろうとしている 小さな女の子とお母さん。 ウィンドウ越し見えるのは、美味しそうに焼けたパン・パン・パン! 二人に続いて、本の中に入り込むと くろわっさん、しょくぱん、ふらんすぱん、さくらんぼのはいったぱんが ふんわりと優しいタッチで並んでいて ‘ぱん ぱん ぱん。 これも これも、おいしそう。 「きのうのわたしはどこに行ったの?」 最近、娘がよくそう尋ねてくる。 時間の感覚が備わっていない子供ならではの問いではあるけれど、 「昨日のあなたは もういないんだよ」 そう伝えながら、その言葉にはっとするのは私の方だ。 昨日のあなたは もう いない。 そして思い出す。 彼女がまだほんの赤ちゃんの頃、 「早くこんな風に手をつないでお買い物にゆけたらいいのに」と思いながら 何度もページをめくっていたことを。 そもそも、これは子供のために買ったはじめての本だ。 彼女がお腹にいたわけでもない。 でも本屋でこれを見た時、いつか子供と読むんだという不思議な確信があった。 そして実際、娘が誕生してからは まるでおもちゃのように、子守歌のように 生後数ヶ月から、この小さな絵本と親しんできた。 何も分からず 紙の手触りを確かめていただけの赤ちゃんは やがてお座りをして 自らページをめくるようになり、 立ち上がる頃には 色や形、そしてパンの味を覚え、 部屋中 本を抱えて歩き回りながら、日々 その世界を広げ、 早すぎた一冊も、物足りないほどになってしまった今、 気が付けば、あの頃のささやかな夢は叶い 今日もわたしたちは手をつないでパン屋さんのドアをぐぐっている。 まるで表紙の二人みたいに。 そういえば先日、彼女はウィロウを指さしてこう言った。 「ママのカップで 私も飲みたい」 いつも自分のカップでなければ駄々をこねるというのに。 日々、流れているのだ。 昨日ではない今日が、確実に流れている。 「今日は パン屋さんに行くよ!」 口の回りのミルクのおひげをふき、日焼けどめクリームを塗り、シャツのシッポを入れてやる。 その合間に、せわしなく自分の身支度を調えながら パン屋さんではきっとトレイやトングを持ちたがって大変だぞ、と心する。 そして そんなあわただしさの合間に、ちっちゃく肝に銘じるのだ。 昨日と今日とは繋がってはいるけれど、昨日のあなたはもうどこにもいない。 今日のあなたを、見失わないように。 *ちょうど二年前のアルバムにも、ほら、一緒に写っていました。 「ぱん、だいすき」 描かれている茶色いポットが我が家のものとそっくりなのです。 「こどものとも ぱん だいすき」(福音館書店) 征矢 清 ぶん ふくしま あきえ え (2004.6.30) |
今日は、野菜カレーを発芽玄米で。 挽肉であっさりと煮込んだカレーに 別鍋でソテーした茄子やパプリカを、どっさり! イライラしてコワイ顔になっている時、落ち込んで元気がない時、疲れてげんなりしている時、 「ママ、かわいくなって!」と娘が言います。 暑い季節に食べるhotなカレーは、元気と笑顔を運んでくれそう。 発芽玄米の甘みも もぐもぐじっくり噛みしめます。 ママ、かわいくなるよ。 君も、よい子にね。 (2004.6.16) |