Blue willow のある食卓
    ーEveryday with Bluewillowーー










    十一月も終わりに近い朝を思い浮かべてほしい。
    今から二十年以上昔の、
    冬の到来を告げる朝のことだ。
    広々とした古い田舎家の、
    台所のことを考えてみてほしい。
    黒々とした大きな料理用ストーブがまず目につく。
    大きな丸テーブルと、暖炉の姿も見える、
    暖炉の前には、揺り椅子がふたつ並んでいる、
    暖炉はまさに今日から
    この季節お馴染みの轟音を勢いよく轟かせ始めたばかりだ。



    カポーティの「クリスマスの思い出」は
    書き出しからして、素敵だ。
    この台所に立つ女性、
    白い髪を短く刈り込み、テニスシューズをはき
    夏物みたいなキャラコの服の上に、
    くたっとしたグレイのセーターを着た女性が
    こんな風に叫ぶところから物語は始まる。


    「ねえ、ごらんよ!」
    その息は窓を曇らせる。
    「フルーツケーキの季節が来たよ!」





    フルーツケーキ、ではないけれど
    同じく洋酒漬けドライフルーツの入ったシュトーレンは
    この時期ならではのお楽しみ。
    粉糖をまとった生地にナイフを入れた時の
    さくり、とした感触が12月。
    薄いスライスを、一日に一枚、
    熱いお茶と共に。
    ぱらぱらと砂糖をこぼしながら。


    「クリスマスの思い出」には、
    終始、フルーツケーキが香っている。
    始まりはもちろん、
    材料を買い出しに行くシーンや
    (サクランボとシトロンとジンジャーとバニラと
    ハワイ産パイナップルの缶詰と果物の皮とレイズンとクルミとウイスキーと、
    ひっくりかえるくらい沢山の小麦粉とバターと、山ほどの卵と各種香料に調味料!)

    出来上がった31個ものケーキを
    窓枠や棚の上にずらりと並べるシーン・・・
    スパイスとお酒のふくよかな甘さが
    頁の間をずっと漂っている。


    だからこそ、時折感じる新鮮な空気に
    大きく深呼吸したくなる。
    切り倒したばかりのモミの木の、
    牧草地を駆け抜ける冬の風の
    大地に寝転んで剝くみかんの、
    芳しさ。
    それはむせかえる室内から
    戸外にでた時のような気持ちよさ。


    フルーツケーキの甘さと、冬の野の清々しさが交差する
    バティーと、その友スックの物語。
    何度も読んで、
    それでもやはり、涙してしまう物語。
    7歳のバティーと、60歳のスックの
    そしてその先の、フルーツケーキの行方を知るからこそ
    二人の迎えるこんな聖夜が
    切なく、愛おしい。



    蝋燭はもう手に持っていられないくらい短くなっている。
    火が消えてしまうと、星の光がさっと入り込む。
    星が窓に光の糸を紡いでいる。
    まるで音のないキャロルを歌っているみたいに。




    *


    「クリスマスの思い出」
    トルーマン・カポーティ
    村上春樹:訳
    (文藝春秋)



    (2012.12.13)