Blue willow のある食卓
ーEveryday with Bluewillowーー
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秋の日 好きな道がある。 ほんの数分ほどの道のりだが ゆるやかな坂道に添って 昔ながらの住宅が並んでいる。 名前は知らなくとも、 子供の頃から馴染みの庭木が植っているお宅も多く、 どこか長閑で、寛いだ空気が流れている。 道端には季節の草花。 ムラサキシキブが風に揺れ、 足下にはホトトギス。 金木犀も香る中、 夏の名残のオシロイバナもまだ実をつけている。 そうこうしていると どんどん坂道の勾配は険しくなり、 竹薮にさしかかるころには 賑やかな子供達の声が聞こえてくる。 その先は、小学校なのだ。 ここは、通学路のいわば裏道で 広い道に平行するように伸びる細道のひとつ。 そしてそれらの細道が、 またいくつもの小道で繋がっていたりするから面白い。 あ、ここにでるんだ。ここで眺望が開ける、 こんなところに、こんなお宅が。 旅先の港町を散策するがごとくの楽しさだ。 さて、そんな散歩道の入り口に ひときわ気になるお宅があった。 柘榴の木のアーチに、 金柑の生け垣。 コスモスの小道を挟んだ畑には、 幾種類もの野菜が育てられている様子。 道の端には、雑草が積まれ、如雨露は転がる、 その雑然とした美しさたるや、 簡単に手に入る類いのものではない。 いつ通っても、持ち主と出会うことはなかったのに 今日は帽子を被った人の姿があった。 立ち止まり、座り込み、何かを拾う、 そんなペースで歩く息子に、 年配の女性はやさしく声をかけてくださる。 そして、しばらくのおしゃべりの後、 「ぼくちゃん、おみかんあげようね」 熟れた金柑をふたつほど取って 息子の手に握らせてくださるのだった。 気がつけば、私の手にも切りたての秋明菊の束。 「ぼくちゃん、またお散歩に寄ってね」 土のついた大きな手と、小さな手、 最後は、何度も握手して。 暑く長かった夏が往く頃から 私が嬉しそうに外を見ては、 その喜びを声に出していたに違いない。 窓辺に立つと、今も息子がよく尋ねてくる。 「きょうも、おそとに、秋、きてる?」 高く青い空の色、 透き通った金色の陽射し、 散歩の途中、君がずっと握りしめていた 右手の「ちいさなおみかん」と 左手いっぱいのどんぐり。 それが秋なんだよ。 さて、10月最後の朝。 登校前のひと遊び?ひと仕事? ココアマフィンに蜘蛛の巣をアイシングを施した娘。 秋明菊を生けた玄関から勢いよく飛び出したかと思うと、 すぐさま、またドアから顔をのぞかせた。 「ねえ、もう冬のにおいがする!」 (2012.10.31) |
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