Blue willow のある食卓
ーEveryday with Bluewillowーー
春の本 ー思い出の本棚からー (2) 「龍の子太郎」 桜からひと月が過ぎ、 そろそろ小学校にも慣れた頃だろうか。 黄色いランドセルカバーの1年生たちを見かける度、 私は「震え上がるような」自分の1年生時代を思いだす。 とにかく、怖い先生だったのだ。 おばあちゃん先生だった。 でも、自分のおばあちゃんみたいに、 ふっくら優しげでもなければ 笑ってもいない。 小柄で痩せていて、白髪まじりの短髪。 眼鏡の奥の目は、いつも鋭く厳しかった。 小学1年生といえば、まだ6歳だ。 小学校という未知の世界に放り込まれ、 教室で、つい涙がこぼれてしまう子だっている。 「泣くのなら、バケツ持って来て バケツいっぱい泣きなさい!」 容赦の欠片もない。 それが先生だった。 幼い私は、ただただ嵐が通り過ぎるのを待つように 日々をやりすごし、 「バケツいっぱい」とだけは言われないように ぐっとこらえて、1年が過ぎたことしか覚えていない。 1年1組の教室は、 まったく、1年生らしからぬ緊張感に包まれていた。 ひたすら、2組や3組の先生が羨ましかった。 一方、母は先生を慕っていた。 本好きの先生が催される読書会にも積極的に参加していたらしい。 そんな中で紹介いただいたのが、「龍の子太郎」だ。 日本の民話をベースとした 壮大な冒険物語。 同じ作者である松谷みよ子さんの「ももちゃんとプー」シリーズを読んだ時も 新しいものと出会った!という驚きがあったが こちらもまた、しかり。 そして、私の中ではやはり この作品は先生の存在と切り離すことができない。 ごつごつとした表紙の絵の質感が 先生の印象とぴたり重なるし それは本当に強烈な出来事だったのだ。 こんな先生が、こんな物語が、 私の人生に飛び込んできた! すっかり大人になり、 戦争未亡人として一人、すっくと立ち、 教師の仕事を全うされた先生の 厳しさの奥に思いを馳せることができるようになった頃、 ふと、「龍の子太郎」を手に取った。 最後の頁に先生からの手紙が貼付けてある。 母が貼ったのだろうが、 まったく、知らなかった。 もしくは、すっかり忘れていた。 手紙を見ると、この本は先生からのプレゼントであったことが分かる。 最後にひと言、こう締められていた。 「いつまでも、・・さんのそばにあれば、幸せです」 先生、 私はすぐにぐずぐず泣く大人になってしまいましたけれど 「龍の子太郎」、今でもそばにありますよ。 娘も読みました。 きっといずれ息子も、読むでしょう。 これからも私達のそばにずっとあり続けるでしょう。 どうもありがとうございました。 先生にまつわるもう一つの鮮やかな記憶、 給食のバナナをフォークで一口大に切って きれいに召し上がっていらしたこと。 皮をむいて上からぱくり、の子供達には ここでもまた、全く、別次元の人だった。 「龍の子太郎」 松谷みよ子 作 久米 宏一 絵 (講談社) |
春の本 ー思い出の本棚からー (1) 「3じのおちゃにきてください」 レンゲほど、親しい花はなかった。 今はすっかり住宅地になってしまった田んぼで 日がな春の日、うずくまるように過ごした。 花を摘んだり、冠を作るのはもちろんのこと、 私達を一番夢中にさせたのは、 白レンゲ見つけだ。 一面の赤紫の花の中に、ほんのわずか白いレンゲが混ざっている。 本当に白だったのか、単に薄い色だったのか・・・ 今となっては確かめる術もないけれど、 子供同士でささやかれていた「白レンゲを見つけると幸せになれる」を疑うことなく、 ひたすら白レンゲを探したものだった。 「3じのおちゃにきてください」は、 ちょうどその頃に幼稚園で出会った本で、 一度で、好きになった。 なんといっても、物語は一面のレンゲ畑から始まるのだから。 小川の横のレンゲ畑で遊んでいた時、 手紙の結ばれた笹舟を見つけたまりちゃん。 手紙は「3じのおちゃ」への招待状だったものだから、 これはもう、いかなくちゃ! 春の旅がはじまります。 途中、砂糖を運んでいたアリさんや、 シーツを取り込んでいたアヒルさんなど 一人、一頭、一匹、一羽・・・ 少しずつ仲間を増やしていきながら 緑の野をてくてく、ずんずん。 手紙の送り主の家に着き、 いよいよ、3時のお茶というその時、 人生にアクシデントはつきもので・・・ 一瞬、みんなは大きなためいきをつくことになるのだけれど 最後はそれぞれの力を持ち寄り 3時のお茶の準備が整っていくのです。 できあがったお茶のテーブルのすてきなことといったら。 お皿の上には、何枚にも重ねたぱんけーきの山。 しろっぷをかけて、クルミをのせて。 アヒルさんの白いシーツは 木の切り株のテーブルのクロスになり、 まりちゃんが摘んでいたレンゲが 愛らしくお皿を彩っているのだから きゅんとなる、なる 幼稚園児だって! 記憶の中で一番古い「おきにいり」の一冊。 一度は絶版になったこの本が 復刊された時は、とても嬉しかった。 大人になって改めてページをめくると 自分の好きなものが詰まった本だったことがよく分かる。 好きなものは結局あまり変わっていないのかもしれないな。 4歳の時も、40代を迎えても。 ハチミツは、今でもやっぱり「レンゲ」が一番好き。 「3じのおちゃにきてください」 こだまともこ さく なかの ひろたか え (福音館書店) (2013.5.01) |