「・・・遠い」
1階や2階にチケットをとることが多い音楽ホールで
初めての3階席に座った瞬間、
後悔した。
ステージは思った以上に、遠かった。
ところが演奏が始まってみると
これがなかなか、楽しい。
ステージ全体が見下ろせる。
最前列から最後列まで、演奏者ひとりひとりがちゃんと分かる。
1階や2階に座る時は、こうはいかない。
オーケストラのメンバーひとりひとり、
演奏している時、出番を待つ時、
皆それぞれに違い、それぞれのスタイルがある。
当たり前のことだけど、
異なっているのは楽器だけではない。
それぞれの個性が、つまりはいろいろな人間が集まって
ひとつの音楽をつくっていることが
視覚的に、明確なのだ。
そんなわけで、演奏会から戻ると久しぶりにこの本を開いてみたくなった。
「PHILHARMONIC GETS DRESSED」
初めて出会ったのは20年も前のこと、
邦題は「オーケストラの105人」だった。
調べてみると、一度絶版になったものの
最近、訳を変えて「105人のすてきなしごと」として再版された模様。
金曜の夜、
家々に灯りのともり始める頃、
「出勤」の為の身支度を整え始める人たちがいる。
彼ら105人はそれぞれの形で身支度をし
それぞれの家族に「いってきます」を告げ、
105のドアから外に出て
地下鉄やバスやタクシー・・・
それぞれの方法で仕事先に向かう。
そして、ほうぼうから
105人が集ってくるのが音楽ホール。
They are the members of the Philharmonic Orchestra
and their work is to play.
Beautifully.
(このひとたちは オーケストラのメンバーです。
シンフォニーを
うつくしく うつくしく 演奏するのが
みんなのしごとなのです。）)
20年前、なんといっても惹かれたのは
「絵」だった。
105人、ひとりひとりが
洗練された線とトーンで
それは細やかに描き分けられている。
シャワーの入り方から、下着の種類、服の着方など
「仕事前」の彼らの細部を丁寧に描く事で
105人105色だということを
ただ、見せてくれる。
ただ、見せてくれる、ということが
どんな言葉を重ねるよりも、雄弁なのだ。
そして、暮らしも装いも家族も異なるそれぞれが集まって、
一つの美しい音楽が生まれていることが
シンプルに伝わってくる。
さて、その夜、3階席から聴いたのは
NHK交響楽団の演奏。
バイオリンに諏訪内晶子さんを迎えた
サン・サーンスのバイオリンコンチェルトとは
拝みたくなるような、プログラム！
諏訪内さんがソリストならば是非、と妹もかけつけて
娘、妹、私と女三人、
桃の節句の幸せな演奏会と相成りました。
・・・・・それにしても
毎日耳にしているというのに
素晴らしい演奏を聞くと、
いつも１音目で新鮮な驚きに打たれてしまう。
バイオリンって、こんな音だった？
因みに、N響といえば
もと、N響バイオリニストの鶴我裕子氏の著書
「バイオリニストに花束を」も面白い。
’すてきなしごと’の舞台裏を描く筆は
メロディーのようによどみなく流れて
笑いあり、涙あり、スーダラ節あり！？
ブラボー！
＊
「THE PHILHARMONIC GETS DRESSED」
by Karla Kuskin
Illustrations
by Marc Simont
(Harper collins Publisherss)
「オーケストラの105人」
訳 岩谷時子
（すえもりブックス）
「バイオリニストに花束を」
鶴我裕子
（中央公論新社）
「
（2014.3.7）
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