Blue willow のある食卓
ーEveryday with Bluewillowーー
高速道路を走ること数時間。 到着した町もまた、わが町と変わらず 午前の早いうちから、 気温はすでに高かった。 したたる真夏の緑と 降り注ぐ蝉の声に気が遠くなりそうになる。 娘の参加するオープンキャンパスに 付き添ってきた。 学舎は異なれど、キャンパスという場所には、 エネルギーに満ちたポジティブな粒子が 飛び交っているようだ。 遠い学生時代が 時折、ふっと蘇ってきては 過去に連れ戻される。 そんな私の隣で、娘が見ているのは未来に他ならない。 研究室を見学したり、学生さん達から話を聞くたびに 彼女の表情に輝きが増してくる。 学食を利用して昼食をとりながら 「いいなあ」 思わず、口をついて出た。 可能性に満ちたキャンパスという場所と、 集っている人々が 眩しかった。 羨ましい、とはちょっとちがう。 戻りたい、わけでもない。 ただ、眩しい。 そして、応援する立場で、今、この場所にいられることが嬉しい。 でも、そんな気持ちはうまく言葉にできないから 「いいなあ」 ふたたびの言の葉を、学食のざわめきの中に放つ。 「暑いと言ってた割によく食べるね。ママ」 こんなに安く、ボリュームある美味しい食事がとれて「いいなあ」だと 娘には届いたようであった。 うん、それもアリ。それでよし。 いいなあ! お土産にわらび餅を。 ことさらに暑い夏。 抹茶の苦味と、つるりとした喉越しが、 ひとときの涼を呼びます。 はい、暑い暑いと言ってる割によく食べています。 元気です。 残暑お見舞い申し上げます。 (2018.8.11) |
なんでもない週末、おめでとう! 週末の夜、 硬い床に横になり、高い天井を眺めながら、 そう書いたのはついこの前のはずなのに、と 考えている。 ここは中学校の体育館で 猛々しい大雨によって 今は避難所になっている。 見慣れているはずなのに、 何もかもが見慣れない景色。 小康状態になったとはいえ、 時折、屋根を打つ雨音が響くと 不穏な胸騒ぎがする。 なんでもなくない週末は、 こんなにも近くにあった。 夜が明けると雨は上がっていた。 あくまでも備えの避難だった私たちは 皆、黙々と毛布を返却し 帰路についた。 途中、早朝から開いているスーパーに寄って食材を買う。 避難所で食事をしたのはほんの二回だけなのに 自分の食べるものを自分で調達できることが 特別なことに思えた。 うっすら日差しが戻って、涙が出て、 メールやラインが届くたびに、涙が出て、 新たな被害状況を知るたびに、涙が出た。 そもそも、自分のキッチンで 煮炊きできること自体が 涙が出るほどありがたいことだった。 直接の被害は免れたけれど それは、ただの偶然にすぎない。 そして報道が及ばないところにも たくさんの傷ついた土地ががあり、 傷ついた人々がいる。 災害があるたびに分かっているつもりだったことなのに 全然、分かってなんかいなかった。 窓の外ではヘリコプターの音がする。 なんでもない週末にすぐに戻ることは難しい。 けれど、少しでも近づけるために 私は目の前の食材を刻み続けた。 (2018.7.28) |
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