Blue willow のある食卓
ーEveryday with Bluewillowーー
本と休日 某日 オーツビスケットを焼いて 読書日和に備える。 オートミールは多め、 甘みは蜂蜜で。 イサベル・アジェンデ「日本人の恋びと」は ブックデザインの美しさと、 意味深なタイトルに惹かれた 完全なるジャケ読み!?だったのに オートミールの噛み応えと じわりとした蜂蜜の甘さのごとく 地味にあと引く、滋味深さ。 果たして、今は大変な時代ではあるけれど 歴史はたいてい困難なものだったと、 あらためて。 大戦時、強制収容所で窮屈な生活を強いられた 日系米国人の苦難のくだり 平時なら読み流したかもしれない一文に、 目が留まるのは今ならではか。 「絶望という退廃に子供たちだけは免疫があって、 長い休暇気分で群れをなして走りまわっては 罪のないいたずらや、想像上の冒険に夢中になっていた。」* 某日 今年は例年のように帰省できない連休だからと 故郷の父から子供達に本が届く。 ときには自分では選ばない本も楽しいだろう、との 父セレクション。 有難し。 夜、久しぶりに子供達の書票を取り出す。 娘や息子がまだ小さかった頃、 万蔵氏が作ってくれたもので 思い出の本、特別な本に貼ってきた。 届いたばかりの本の見返しに貼りつけ、 日付と今の状況を軽く記す。 特別な年の、特別な本に。 某日 小雨そぼ降る、静かな朝。 緑はいっそう鮮やかで、 鳥の声だけが、時折、静寂を破る。 本日も、読書日和・・・ と思いきや、案外そうでもない。 しとしと降る雨の日を 「好きな本を読むのすら勿体ない程の心の落ち着きを感じます」 と言ったのは詩人の薄田泣菫だったが、 さも。 何度も手を止めながら、引き続き「日本人の恋びと」。 歴史の困難さと同時に、 時代を問わず、人は皆、個々の重荷と共にある。 登場人物たちがそれぞれに背負う、種々の重みよ。 某日 五月晴れ。 午後から気温も上がってきた。 キッチンの窓辺からは、 蜜柑の花が蠱惑的な香り。 「日本人の恋びと」読了。 淡々とした筆致ながら 戦争もホロコーストも虐待も病も リアルに描かれていたからこそ、 ファンタジーを帯びた主人公の最期は、 忘れがたいものとなった。 以下、あとがきより。 「人種や境遇、性別をこえた様々な愛は アジェンデ作品の中心テーマだが そこに「老いと死」の現実を重ねたところに 普遍性と現代性をあわせもつ比類ないこの小説が誕生した。 本編では歴史の検証の上に ネット社会の闇や移民問題など今現在の世界の様相も投影され 単なる恋愛譚をこえた奥行きがある。」* 某日 食事を作り、食べて、片付けて 本を読んで。 毎日が同じように過ぎていった休日。 もともとstay home気質なので さほど、不自由はないし まとめ買いした食材でやりくりし、 (お八つの材料もぬかりなく。今日は冷たいチーズケーキ。) せめても、と始めた 夜のご近所ウォーキングが 思いの外、楽しい日課に。 日の暮れた住宅地は 驚くほど静かで、人通りはほとんどない。 それでも、家々からは灯りがもれ、 そのひとつひとつの下には人々の暮らしがある。 人生がある。 それは物語だ、と思う。 活字になり、出版されることがなくとも 誰もがそれぞれに唯一無二の物語を生きているのだ。 五月の夜気の中、 私も私の物語を歩いている。 *「日本人の恋びと」 イサベル・アジェンデ 著 木村裕美 訳 ( 河出書房新社) (2020.5.7) 半端に残っていた林檎とさつまいも、 どちらも焼き込んで パウンドケーキの朝食。 新緑の季節に、秋みたいなケーキ。 うん、悪くない。 今朝は、まだ早き町を歩いてきたから お腹も気持ちよくすいている。 いつもと違う連休の幕開け。 いつもと違う時間を楽しみたい。 (2020.4.29) |