Bluewillow のある食卓
ーEveryday with Bluewillowーー
SEPTEMBER DIARY 9月某日 雨上がりの夕暮れ。 街に灯りがともりはじめる時刻で バスの座席に身を沈めると 雨粒でくもった窓ガラス越しに 街の灯りが滲んで 読み終わったばかりの小説の一節が ふと胸をよぎるのでした。 「だが人生の中で、 どれほどのことを自分で選択できるというのだろう。」* *「アントワネット」 ロバルト・ヴェラーヘン 國森由美子 訳(集英社) 9月某日 ちょっと気分が下がっていたり 逆に、ちょっと上がっていたり。 いづれも、気持ちの揺れ幅が「ちょっと」だけ大きいとき 特別なバターを買って帰ることが多い。 日常使っているものよりも少しだけ値が張り、 パッケージも素敵なもの。 慰めというほどでもなく、 ご褒美というほとでもないけれど 特別なバターを一箱。 200gのほどよい重みが 気持ちの揺れ幅をほどよく調節してくれる。 最近気に入っているのは、フランス産のイズニー。 今日はこのバターで定番のビスケットを。 9月某日 文化祭らしき高校生を見かけた。 私の高校時代も文化祭は残暑の9月だった。 普段は、各々が原稿を部室に持ち寄るだけの文芸部だけど この時ばかりは製本した作品集を販売する。 文化祭が近づくと 放課後に準備だ。 窓の外はすっかり闇に包まれ、 蛍光灯のともる教室は白々とあかるく 昼間とは異なる表情を見せる。 そんな環境が、普段あまり言葉を交わすこともない私たちを 少しだけ饒舌にした。 どこかぎこちなくも新鮮で、楽しい時間が 流れていた。 つい一月前、盆休み直前のオフィスのこと、 もともと休みをとっている人も多く 私も午前中で帰る予定にしていたのだけれど 昼休憩に入る頃から、空模様は怪しく、 あっという間に、いわゆるゲリラ豪雨。 帰るに、帰れない。 皆、足止め。 雷鳴が轟き、 窓の外は真っ白に煙る中、 それぞれの島にいた人たちが なんとなく窓際に集まってきて ぽつり、ぽつりと会話が始まった。 気がつけば 普段はあまり関わることのない他チームの人とも 雨を眺めながらおしゃべり。 天気の話は、いつしか思い出話にまで発展して どこかぎこちなくも新鮮で、楽しい時間。 雨に閉じ込められた私たちは、 闇に閉じ込められた夜の学校の高校生のように 少しだけ弾んでいた。 9月某日 新しい仕事に就いてもうすぐ半年。 ようやく全体の輪郭のようなものが見えてきた。 まだまだひよっこだけど、 この夏でひと山越えた感もある。 これを機に、職場でも愛用している辞書の「机上版」を購入。 そろそろ目も労りたいお年頃。 大きい文字は有難く、 表紙のブルーグレイも好ましい。 辞書と並んで、新しいもう一冊、 昭和48年初版の伝説の名著の復刻版と聞き、 手にとってみたら、 「序論」ですぐに心打たれてしまった「ジュニア英文典」。 (文法は)せいぜい、最大公約数的な約束ごとの集大成なのである、 であるから、文法の勉強をするときには、 基本的なことをしっかり覚えるのは、むろんたいせつであるが、 いっぽう、ことばの持つ柔軟性を考えて、 文法ルール以外にもまた、 たいせつなことー〈その時その時における人の心の動き〉、 〈音声の配列とかリズムとかを美しくしたいという欲求〉などーが あるということも知らなければならない。 英語に上達するためには、英文法の学習は 必要条件であって、 それは十分条件ではないのである。* 「序論」だけで名著だって分かる。 そう、私たちは言葉を学んでいるのだから ルール以外にも大切なことだってたくさんある。 新しい気持ちで、この古き文法書を読んでみよう。 *「ジュニア英文典」 毛利可信(研究社) 9月21日 24回目の結婚記念日。 あろうことか、一日日にちを間違えて しかも、帰宅後うっかりウトウト。 目が覚めたら、万蔵氏は帰宅して テーブルには花とケーキ。 絶賛夏休み中の大学生が カレーライスを作ってくれていた。 このサイトを始めたのは1回目の結婚記念日。 まだ夫婦二人暮らしだった。 それからの日々を、想う。 さて、24回目の記念日。 中学生の息子が塾から帰ってくるのを待って いよいよ「シューカツ」の始まった大学生の娘の話を聞きつつ、 ケーキを美味しくいただいた。 変わらないBluewillowのある食卓と、 変わりゆく日々が愛おしい。 毎年この日には同じことを思う。 感謝して、また、新しい一年を。 (2022.9月末日) |
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