Blue willow のある食卓
ーEveryday with Bluewillowーー
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イギリスのスコーンが好きで これは!というレシピに出会うと作ってみずにはいられません。 8月は2回ほど焼きました。 どんなレシピで作る時も うまく焼けたかどうかを判断する第一関門は 焼き上がりに「ムガーッ」ができるかどうか、です。 スコンの生地をオーヴンに入れて 焼き上るのを待っている。 狼の口のように、ムガーッと 割れ目が開いたら大成功。 万一、開かなかったら残念ながら失敗。 スコンの狼よ、吠えよ! オーブンの窓を覗きながら 私はいつも天に祈るのである。* これは、日本文学者のリンボウ先生こと林望氏の著作 「イギリスはおいしい」の中の一節。 wolves mouth(オオカミの口)と呼ばれる割れ目ができる様子を 「ムガーッ」と表現されたのが印象的で この本を初めて読んだ学生時代からずっと 「ムガーッ」はスコーン作りの私の指標。 スコーンを焼くたびに 心の中で、「ムガーッ、カモーン!」と スコーンの狼が吠えるのを待っているというわけです。 (ちなみに、著作の中でのリンボウ先生のスコーンレシピは シンプルにして、独特の食感が命であるスコーン作りの極意が 余すことなく書き込まれていて、読み応え抜群です。) ところで、「イギリスはおいしい」が話題になった当時、 大学のイベントでリンボウ先生の講演を聴いたことがありました。 テーマはイギリスについてだったので 前の席を陣取り、ワクワクと待っていたら 颯爽と登場されたリンボウ先生、 手に携えたるは、風呂敷の包みで 演台の上に静かに置かれるや、 するりとほどいて 持参された資料や書籍を取り出されたのでした。 その一連の動作がなんとも洒落ていて 講演の内容と同じくらい、今でも記憶に残っています。 8月ももう終わり。 息苦しい酷暑の日々に 息つぎでもするかのように眺めていたのが コンスタブルの夕景。 1809年の8月に描かれたものだそうですが 筆跡のはっきり残るあえかな空色を見ていると 少しだけ、暑さが遠のきます。 いつまでも暮れないイギリスの夏の夕べ 気持ちのよい風が吹いていて・・・ なによりの清涼剤です。 なあんて、灼熱の中、2回もスコーンを焼いていれば 世話はないのですけれどね! レシピに正解はないし、どれもそれぞれに美味しさがある。 それでも、新しいレシピでスコーンを焼き続けるのは イギリスのこんな空の下で出会ったいつかのスコーンに 辿りつこうとしているからなのかもしれません。 *「イギリスはおいしい」 林 望 (平凡社) *「テート美術館蔵 コンスタブル展 図録」 (三菱一号館美術館) (2025.8.31) |
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