Blue Willow のある食卓 vol.25
どんなものと合わせても
いつも新鮮な驚きをくれるブルーウィロウ。
はっとさせられる瞬間を
暮らしの中から切りとって。
それはアイルランドの古い民謡なのだそう。 古代から音楽が盛んだったこの国に 受け継がれてきた旋律。 「柳(willow)の庭で僕は彼女に出会った」で始まる歌詞は、 もともと村の老人が口ずさんでいたものをもとに、 ケルト文化を愛した詩人W.Bイェイツが詩をつけたものだとか。 「サリーガーデン」は(原題「Down by the Sally Garden)」 豊かな情感をたたえた、味わい深い佳品。 どこか物悲しくも、懐かしいぬくもりを持ったメロディーに 心地よく自分を委ねられる人も多いのでしょう。 日本でも、歌はもちろん さまざまな楽器による演奏で親しまれていますが 秋という季節と、 どこかで共鳴し合っているのかもしれません。 弦楽器ならではの、つややかで、奥行きのある響きが とりわけ 今の気分。 ヴァイオリンでの演奏をよく聴いています。 ようやく明るくなり始めた 午前6時前。 朝の張りつめた空気の中、 「サリーガーデン」に耳を傾けていると娘が起きてきました。 幾重にも重なる色を帯びた窓の外を見てつぶやきます。 「朝なのに、どうしてお空が夕焼けなの?」
ウィロウの園を懐かしむ、 |
ジョン・アップダイク作の「十月はハロウィーンの月」は 季節の風景と、その歓びを子供の目線で謳った 詩と絵のカレンダー。 アメリカのそれと、私達の四季の風物詩は もちろん、必ずしも重なるわけではないけれど、 折り折りに、ページをめくってみたくなる 素敵な、素敵な一冊です。 ‘さわやかな風は リンゴの皮の味がする。 空気はどこも 匂いにみちている’ このフレーズは9月の章のもの。 高く青い秋空の下、自転車を漕ぎながら、 けれども、これはまさに、今の私たちにぴったりだなあ、と 匂いに満ちた10月の空気を 何度も大きく吸い込むのです。 匂いといえば、やはり、なんといっても 風にとけ込んで街中に漂っている金木犀。 鼻の奥、記憶の奥までをもくすぐるような はかないようで、その実、力強い香りは 日本の秋を、 この地で私が重ねてきた33回分の秋を、 一瞬にして呼び起こす力を持っているようです。 そんな中、ペダルを漕いでいて はたと、もう一つの圧倒的な秋を思いついてしまいました。 思いつくやいなや、スピードアップで 寄り道街道まっしぐら。 帰宅した私の手には、 これまた あまずっぱい香りを放つ、つやつやの紅玉が! 早速、ジャムを煮て、 ヨーグルトにのせ、マフィンに焼き込み 季節の恵みを堪能しました。 日本の10月は、一年で一番気持ちのよい季節。 そう言えるのではないでしょうか。 爽やかな風と、朝晩のひんやりした空気に ミルクティーもいよいよ美味しくなりました。 友人が送ってくれたYORKSHIRE TEAは、 日本の水とも相性がいいのでしょう、 ティーバッグとは思えないほど、パンチのある濃いお茶が楽しめます。 この一杯で一日を始める今日この頃。 長袖の感触に 新鮮な喜びを覚えたり。 街は今日も、あまい香りに満たされています。 ’洗剤できれいに洗った 皿のように 朝もやに きれいに みがかれた 秋の日々。’ (2005.10.15) |
結婚記念日のお祝いに、今年もDove Dottageへ行きました。 庭の緑を望む大きな窓、 アンティークのダイニングテーブルや ひとつひとつ形の違う椅子。 壁やドレッサーに飾られた額縁や絵皿。 やっぱりここには、イギリスの空気が流れています。 「このお部屋は 少し暗いね」と娘。 そうよ。私はこういう光が好きなの。 自然光と間接照明だけの、ほどよい明るさ。 イギリスはこういう感じが多いよ。落ち着くと思わない? 私は今年も、ローストビーフのホットサンドウィッチを注文しました。 嬉しいことに、運ばれてきたお皿はウィロウ。 少し波打ったような表面に特徴のある、Spode社の気品あるウィロウです。 テーブルの古びた木肌は、まさにウィロウが一番素敵に見える舞台! 青色がこの上なく美しく映えて、 見慣れているはずのこの器に、あらためて見入ってしまいます。 そういえば、2年前に来た時は、飾ってあるウィロウは1枚でしたが 今回は、棚の上に1枚、ドレッサーに2枚、 そしてカウンターの隅にある時計までもが、ウィロウです。 さりげなく視線を泳がせながら、心でうふふ。 娘も気がつき、目を輝かせながら 「うちと同じブルーベリーのお皿だ!」 ・・・彼女、5回に1度は、言い間違えています。 その後、倉敷の町をそぞろ歩き、 アイビースクエアで、夕風に吹かれしばし休息。 蔦の絡まるレンガの建物に囲まれた空間で 沢山の人達が、それぞれに思い思いの時間を楽しんでいます。 オープンエアの心地よさを十二分に満喫して、 少し肌寒く感じる頃、家路に着きました。 おみやげにはやっぱり、Dove Cottageの鳩のビスケットを抱えて! 一緒に出かけて、一緒の場所に戻ってくる。 家族って、いいものだなあ。 これからもこのメンバーとなら楽しくやってゆけそうです。 (2005.9.24) |
ポロン、ポロロン 平日の午前中、 どこかからピアノを練習する音が流れてくると ‘ああ、ナツヤスミだ’ と思います。 季節が、ではなく 私自身が駆け抜けた感のある2005年の夏。 ご近所ピアニストさんの演奏を聴ける日は そう多くはなかったけれど。 陽が暮れてくると、 何をおいても、 Keith Jarrettの「The Melody At Night ,With You」. 詩情溢れるピアノの旋律は 熱のこもった夏の夕べに、鎮静効果があるみたい。 どんな暑い一日であっても、どんな慌ただしい一日であっても、 このピアノが流れると、 安堵とも、安らぎともつかぬため息を 心身が 大きくつくようです。 浴びるほど聴いても 慣れるということも、飽きるということもありません。 ところが不思議なことに 季節が移ろい始めると、 この衝動も少しづつフェイドアウト、 寒い季節にはその存在さえも忘れているほどなのですが 又、夏が巡ってくると求めてしまう。 そんな、音楽なのです。 Keith Jarrettのピアノと ヨーグルトを入れたレアチーズケーキで、 ひんやり、夏の終わり。 (2005.8.26) |