Blue Willow のある食卓 vol.54
どんなものと合わせても
いつも新鮮な驚きをくれるブルーウィロウ。
はっとさせられる瞬間を
暮らしの中から切りとって。
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参観日のハンバーグ
腕にずっしりと重い息子を抱いて、 目指すは4階。 息も荒く、足元ふらふら、 ようやくたどり着いた3年生の教室は 国語の授業の真っ最中だった。 「わたしと小鳥とすずと」 黒板には金子みすずの詩が書かれている。 小高い丘の上に建つ学校の、更に4階だ。 娘が教えてくれていた通り、見晴らしは抜群。 開け放たれた窓の向こうには市街地が広がり 気持ちのよい五月の風が 子供達の間を吹き抜けてゆく。 娘は私に気がつかず 熱心に先生の話を聞いたり、発表をしたりしている。 もちろん行きたいけれど どうなるか分からないよ。 今朝、そう告げていた。 授乳のタイミングや体調、天候 赤ちゃん連れの外出は、なかなか先が読めないものだ。 もし行けなかったらごめんね。 そうは告げていたけれど、 もちろんそれは期待を裏切ることになった際への 予防線であって 必ず行こうと私は心に決めていた。 妊娠が分かったのがちょうど一年前。 ほどなく酷いつわりが始まり それが終われば・・・の期待空しく 臨月に入るまでほぼずっと自宅安静を命じられた。 検診以外は外出もできず、 ひたすら横になっているしかない日々。 学校行事は都合がつく限り、万蔵氏が出席してくれたけれど 娘が力を入れていた学習発表会の合奏も 親子料理のイベントにも 私は参加することはできなかった。 産まれたら産まれたで 真冬の戸外に首も座らない赤ちゃんを連れ出すのははばかられ 気がつくと、季節は一巡しかけていた。 「ママにも観てほしいな・・・」 いつも気丈に振る舞っていた娘から 時折、ぽろりともれる本音に 今日こそは応えてあげたいと願っていた。 ふと、廊下に視線を向けて 私に気がついた娘の目が一瞬大きく見開かれた。 表情がぱあっと明るくなる。 授業が観たかったわけではない。 この顔が見たかっただけなのだ。 ママ来たよ。弟も連れて来たからね。 息子を少し持ち上げて、そっと目配せをした。 実に約1年ぶりの小学校だった。 長い間は居ることができなかったけれど 帰宅した娘は上機嫌。 どうだった? 発表聞いてくれた? 来てくれて、ありがとう! 高揚した気持ちが伝わってきて その嬉しさをもっと分かち合いたいような ずっと味わいたいような気分。 よく頑張っていたね。大きな声で発表できたね。行けて嬉しかったよ! そして、これまでの一年間のことを思うと そんな言葉だけでは足りない気さえして、 「今夜は、ハンバーグにしようか!」 思わずそんな一言が口をついてでてきてしまった。 娘の大好きなハンバーグ。 全くそんな予定などなかったけれど 冷凍庫には、挽肉があるはずだ。 やったあ! 笑顔がまた一回り大きくなった。
なにしろ、急な思いつきだったので つけ合わせはバターコーンだけ。 具沢山のお味噌汁を添えて どうにか体裁をととのえるも ちょっぴり寂しい食卓です。 それでも家庭のハンバーグは やっぱり美味しい! 焼きたてにチーズをのせて ソースとケチャップを合わせて煮詰めたソースをかけて いただきまーす。 「ママのハンバーグ世界一!」 嬉しい日に食べたくなる、家族のごちそうです。 *** 後日、娘の宿題ノートに「さんかん日」という 日記が書かれていました。 「さわやかな風の中、私達は勉強しています。」 そんな書き出しで始まる文章。 「(略)みんなつくえにすわって しゅう中していました、 あらっ あそこに一年も見ていない顔が! お母さんでした、 弟をつれて、重いのに来てくれていました。 お母さん、ありがとう、私の生活を見に来てくれて。 今日は国語の授業でした。 先生が言っていることをしっかり聞いて ノートに書き写す。 あっ、もうお母さんいない。 でも1年ぶりに学校で会えてうれしかったよ。 家に帰ってもほめてくれました。 お母さんが一年ぶりに来てくれた日、つまり今日は忘れたくないです。 すずしい、いいさんかん日でした。」 私にとっても忘れたくない・・・ いえ、忘れられない参観日となりました。 (2010.05.10) |