英国小景
Oliverはテムズのほとりで
ただ一匹の犬と暮らしている。
ときどき友人と食事をし、散歩にゆき、買い物にゆく。
そして窓外の季節が移ろうのを いつも独り眺めている。
川面の色が変わるのを いつも独り眺めている。
絨毯が敷き詰められた邸宅で
ひっそりと暮らす英国の人々。
その‘閉ざされた楽園’に抱いていた憧れは
‘静かな生活’に焦がれていた無邪気さは
Oliverの家で 打ちのめされた。
静寂との対話は
思ったほど続かない。
趣味のよい調度品も ただモノクロにうずくまり
慰みにはならない。
緑と水に囲まれた、
誰もが羨むこの瀟洒な一人居には
こんな静けさを受け止める強さが必要なのだろうか。
ソファに身をしずめ めぐる想いは
真夜中に響く時計の針のように
一秒 一秒が 重たく、鈍く、
そして果てしない。
Oliverはテムズのほとりで
ただ一匹の犬と暮らしている。
窓辺に、遠い昔の写真を並べ、
色あせた笑顔が 孤独をいっそう深めているのを
愉しんでいるのか、悲しんでいるのか、
それは 私には分からない。
Windsor 2000