冬時間
目覚めると、まだ薄暗い2月最後の日曜日。
ストーブをつけ カーテンを開けると
どんよりと低い空が広がり、
雪もちらついています。
振り返って時計を見なければ 朝だと思えない
重苦しくも 心がしんとなる、
いかにも冬然とした光景。
冬も終わり・・
それでも 私はそんなことを思いながら
窓の外を見ていました。
あさってからは3月。
いくら寒い日があるにしても、それはもう決して冬のものではなく
新しい季節への期待をよりいっそう高めるだけ。
季節を迎える高揚と見送るさみしさ。
センチメンタルな理由は他にもありました。
一人一人巣立っていった生徒たち、
あわただしさで感傷への照れを隠してしまったことへの後悔。
気の利いた言葉のひとつもかけてあげられればよかったのに。
ストーブにかけた薬缶がカタカタ音をたて
修治さんが起きてくる頃には
日が射しはじめ、雪は姿を消していました。
降り注ぐ陽が 濡れた道路に反射して
世界はよりいっそう明るく、
先ほどとは別世界。
新聞を広げながら 彼が言います。
「楽しみだね」
そう、今日は古い町のお雛まつりを見にゆくのです。
春を待つ 雛祭り。
新しい季節はもうそこまで来ている。
そしてまた新しい出会いもあるだろう。
それが分かっていながらも、
それを楽しみにしていながらも
もう少しだけ、このグレイに閉じこめられた世界の中で
たゆとっていたい。
しばらく時間を止めていたい。
そんな私のために 今朝のひとときは
神様がひっそり私だけに用意してくれた冬時間、だったのかもしれません。