冬時間
動揺
「髪、切られたんですね」
授業の初めに いきなりそう言われた。
高校三年生の男の子に。
確かに ここのところずっと手をかけていなかった髪を
かなりばっさりと切ってはいたけれど
それについては誰も何も言ってこなかった。
女の子達でさえ。
いきなり予測もつかないことを
予測もつかなかった子から言われたので
私はすっかり とりみだす。
それは自分でも滑稽なほど。
「・・・うん、と 暑いからね」
「・・・・・」
ようやく 口をついてでた言葉がそれだった。
九月も下旬に入り 秋風が吹きはじめたというのに
「暑いから」とは!
本当に暑い間は伸びるがままにしていたくせに
なんて笑える返事なのでしょう。
動揺が見え見え。
彼はその後 もう何も言わなかったけれど
すっかりペースを崩した私は
その時間、最後までなぜかそわそわ。
それを隠す為に 無理矢理なにかを言おうとすると
結局 それが墓穴堀りになって
空回りの悪循環!
情けないったらありはしない。
もう ボロボロ。
授業が終わって、それでもどうにか挽回しようと決心。
その子が前日休んでいたことを思い出して
ちょっとからかってみた。
「風邪でもひいたの?それとも、サボリ・・・だったりして!」
「身内に不幸があって・・・・」
こういう時は こういうものだ。
ふう、とため息をついて 本をたたんだ。