冬時間
4歳児の情景
・長距離ドライブの後・
「ビールでも飲んで、ゆっくり寝たいなあ」とパパ。
「わたしは、いちごジュースを飲んで、踊りたい!」
・手紙・
同年代の子供達を見ていても、たいていそう。
「手紙」がブームで
しょっちゅう手紙を書いています。
友達に、家族に、お人形に、自分に。
自分が書く手紙も、もらってくる手紙も
なにしろ 4歳児。
フシギな字や表現のオンパレードなのですが
そこが なんとも楽しくて。
ある午後、
娘の理不尽なぐずぐずが始まりました。
しばらく様子を見ましたが
身勝手な言い分は増すばかり。
その日は暑くて、疲れも限界。
もうそれ以上、取り合えない・・とばかりに
私はソファに座り、自分の本を読み始めました。
しばらくすると、
かさ、こそ、と紙が置かれます。
緑色の大胆な文字で書かれているには
‘ていぶるに しゃしんが おいてあるのが わかる?
あの しゃしんわ ままのしゃしんよ’
テーブルを見ると
私の絵が描かれた(本人曰く、写真)手紙があり、
絵の横には「ままのよ」と書き添えられていました。
・夢の世界に・
4歳になったら何かひとつお稽古ごとを・・・
子育てが始まった頃から 漠然とそう思っていましたが
今年の初めより、娘はバレエを習い始めました。
音楽に合わせて 体を動かすバレエは
情操面でも、体力作りにもよさそう・・・
見学に行った時はそれくらいの気持ちだったのですが
教室を後にする頃には
親子それぞれが すっかりこの世界に夢中。
頭のてっぺんから、足の先まで、
全身に意識の行き届いた姿は
ただ、それだけでため息がでるほど洗練されていて 目が離せません。
目のあたりにするバレエの基礎練習は
‘人間の体の動き’が
これほどまで美しいものだということに開眼させてくれたのです。
それはこれまで自分が心を動かされてきた分野のこととは
ひと味違った驚きと感動でした。
一方、娘は娘で 目を輝かせてご執心。
曰く、「・・・・プリンセスのせかいがひろがっていた。」
初めての場所が苦手な彼女が
さっと私の手を離れて
初回から生き生きとレッスンに参加できたことも印象的でした。
毎回レッスンの最後には
ピアノが奏でる「Beauty and the beast」のメロディーに合わせて
一連の踊りやポーズを流して、お辞儀をします。
多くの子供達は、レッスンの中でもとりわけその時間がお気に入りなのだそう。
実際、一生懸命に踊る小さなプリンセス達は
どの子も本当にかわいらしい。
半年経った今でも、私はこの時間に
なぜかいつも、じんと胸が熱くなってしまいます。
教室までは、徒歩で10分弱。
おしゃべりしながらの道のりも、また楽し。
「できなくても いいの。
でも、まじめにしないと、先生は叱るの」
挨拶やお行儀にも厳しく、
レッスンもきりっと 体育会系の先生です。
教室で学べるのは
踊ること以外にも、沢山あるようです。
スケッチブックには お団子ヘアのバレエ姿も登場するように。
今はただただ楽しいバレエ。
優雅な白鳥には
水面下でのたゆまぬ努力があることに
娘も徐々に気づいてゆくことでしょう。
・一緒に・
ベッドに川の字、
まだまだ起きたくない 日曜日の朝。
「私達、年をとっても、おばあちゃんになっても、三人でいようね。」
「大人になったら、いっしょのおしごとしようね。」
いつまでそんなことを言ってくれるのかな。
・迷わない・
全ての道を歩けるのではないのだから、
一度決めたら、迷わないでいこうと思う。
選択肢も、情報も、よさげな考えも
探せば探すほどあって、
でも、だからこそ
迷わずに行けたら、と思う。
選び取った1つのものを
ひたむきに、根気よく続けてみよう。
続けきらないと見えてこないものも
きっとあると思うから。
そこにあるものを
私も一緒に見てみたいと思うから。
・バランス・
体重15キロの娘を自転車に乗せて
プリスクールまでの道を走る。
初めは重く感じるけれど
すぐにその重みは、心強く、
やがて 楽しいものと変わってゆく。
スクールに到着し、娘を見送り、
再びペダルを漕ぐと
おやっ、というほどそれは軽くて
あまりに心許なくて
バランスを崩しそうになるほどだ。
背中はすうすうして、ハンドルが遊ぶ。
新しく咲いた花を見ても、カッコイイ車に出会っても
報告することもできなくて、
なんとなく 残念。
なんとなく、寂しい。
娘、4歳。
彼女も、私も、
一人の時間が増えてきている。
これからはもっともっと増えるだろう。
一人であっても、
もちろん二人でいても、
バランスを崩すことなく
それぞれがしっかり
風をきってゆきたい。
(でも、寝起きに‘だっこ’と腕を広げてくるくせは
まだまだ変わらないね。
くしゃくしゃの髪の毛と、肌のにおいを
ぎゅっと抱きとめる時間が、
私もとっても好きなのよ。)
・自分の足で・
東鳳便山には、
子供の頃から、何度も父に連れられて登ってきました。
中学に入ると、秋の遠足で、
最後に登ったのは、高校生の時だったでしょうか。
帰省の折、娘も一緒にその山に登ってみることになりました。
標高約740m。
さほど高いというわけでもありませんが、
登山をしたことのない幼児には、
もちろん大きなチャレンジです。
休憩を挟みながら、2時間半。
上機嫌に歩みを進めていた娘でしたが
そろそろ疲れもピークに達したようでした。
ようやく山頂が見えてくる頃、
けれども、この山はここからが厳しいのです。
あと少し、あと少し、と思いながらが長く、
ただでさえ疲労した足腰に
歩きづらい丸太の階段が続きます。
とうとう、娘がギブアップ宣言!
「ここで、おべんとうにしよう」
なだめすかして、数歩。
「おんぶして」
おだてて、数歩。
同じく登山されている方々に
声援をもらって、また数歩。
でも、もうそれまで。
これ以上は誰が何を言っても無理・・・と思われた時、
小学生くらいの女の子が
一生懸命、登ってきました。
よいっしょ、よいっしょ、汗だくです。
あとは、私達の励ましはいりませんでした。
どんな言葉より、
その姿が、娘を動かしたのだと思います。
最後の最後まで、
自分の足で登りきりました。
爽快感、でしょ?
満足感、だね!
自分の足で辿り着いたんだものね。
山頂の風に吹かれて、
娘の顔は誇らしげに輝いていました。
(2006.5.30)