冬時間
トースターについて
生活をめぐるさまざまな道具や雑貨の中で
道具としての使い勝手と同じくらい、その存在自体そのものに
魅力を感じてしまうものがあります。
たとえば その代表がトースター。
トースターは私にとって特別な道具ですし、
トースターがある朝の風景が心から好きです。
もちろんそれは銀色に光って どっしりとしていることが必須条件。
パンを焼くことのみならず 万能にその威力を発揮する
レンジやオーブントースターがある今
薄切りにしたパンしか焼くことの出来ないトースターは
あまり脚光をあびないのかもしれません。
生活必需品ともいえないでしょう。
しかし、ただパンを焼くためだけ、ということが
私にとっては魅力のひとつなのです。
2人分のパンがこんがり焼き上がって ポンっと飛び出す。
その目的ゆえのあの愛すべき形!
なんてシンプルで夢のある道具なのでしょう。
また、香ばしい、という目にも耳にもおいしい表現が
ほどよく焼き上がったトーストにほどぴったりとあてはまる
ないようにも思います。
それほど存在感のあるトースターですから
彼が主人公の話があっても ちっとも不思議ではありません。
「いさましいちびのトースター」
アメリカのトーマス ディッシュの作品です。
夏別荘に置いてけぼりになった彼が
ご主人様を捜して 冒険を繰り広げる話なのですが
いさましいちびのト−スター!
このタイトルだけで 私は手に取らずにはいられません。
ちびで なお いさましいなんて
なんだかほほえましく、心強くさえあるでしょう。
そんな彼の焼くパンが美味しくないわけはありません。
なにせ 彼はこんな風に自負しているのですから。
「どこのメーカーの製品でも ぼく以上にうまくトーストを作ることはできゃしない。
薄くもなく 濃くもなく
いつもころあいのキツネ色にカリっと焼きあがるんだぞ。」
少し形は違いますが 我が家で愛用しているのも
その小説のモデルとなったサンビーム社のトースターです。
そのトースター選んだのは私です。
けれでも万蔵氏の同僚がうちに来た時、
トースターを見た彼がさも!といった顔つきで万蔵氏に言っていました。
「らしいですね」
お茶を入れながら二人の会話を聞いていた私も
その言葉には思わず微笑んでしまったのでした。