花冷えココア
いつもそこにいてくれる。
晴れた日も、雨の日も、
風の日も、雪の日も、
元気な時も、そうでないときも、
嬉しくて何も手につかない時も、
つらくて何も考えられないときも、
思いきりひとりになりたいとき、でさえも。
それは思うにすごいことだ。
恋人や友人だったらこうはいかない。
気の乗らないときは、それなりの言い訳で
キャンセルできるし、
もっと楽しいことを見つけたら
そっちを採ることだってできる。
風邪なんてひいたら 第一 会わないし、会えない。
でも、そうはいかないのだ。
気が乗らなくとも、
他の楽しいことを見つけても
たとえ熱が出たって
今、私はひとりではない。
娘が生まれて そうやって暮らしてきた。
それは時々、窮屈でさえあるし、
ちょっとタイム!と言ってみたいこともある。
それでも 彼女はいつも私の前にいる。
どんな時も一緒にいる。
そして
‘そこにいてくれる’
ただ そのことに励まされている自分がいる。
今年の桜はずいぶんとせっかちだった。
今日は 花冷え。
スモックブラウスの胸元がすうすうして、
洗濯物を取り入れるとすっかり冷えてしまったので
ココアを入れた。
我が家にはココアを飲むときだけに使うマグがある。
フィンランドのメーカーのそれは、
うまくいえないけれど
とても北国の色をしている。
ブルーのとピンクのとがあるけれど
それは私達が普段知っているブルーでもなければ
ピンクでもない。
微妙な北国のニュアンス。
絵の具をフィンランドの湖水で溶いたのかしらん?
そんな色。
そしてそれは実際、少し寒々しい色なのだけれど
とろりと湯気のたつ熱いココアが なぜかしらよく似合う。
それを木のおさじで 少しずつ飲む。
食べるように飲む。
山と積まれた洗濯物の前で飲む。
娘の寝顔や、ちらかったおもちゃを
ぼんやりと眺めながら
ひとさじ、ひとさじ飲む。
ゆっくりと彼女の目が開いた。
うつろな目が
それでもしっかり口元に運ばれるおさじを追っている。
それから いきなり顔を真っ赤にして
ひとしきり泣きに泣いた。
しばらくして落ち着きを取り戻した彼女に
ほどよく冷めたココアを
おさじで一口ふくませてあげた。
涙のたまったまんまるの目が
もう 嬉しそうに次を催促している。
娘にもいつか、買ってあげようかな、
北国の色をしたココアマグ。
ココアの甘さが和らげてくれるのが
寒さだけではないことに
もう気づいちゃったみたいだからね!
(2002.3.28)