冬時間
あかりを灯す時間
日暮れの早い冬。
薄暗くなる夕方には
ランプにあかりを灯します。
ランプの縁飾りの影が
壁にレースのような模様を描く
その やわらかなゆらぎ。
昼間とは違う表情で 浮かび上がる
ツリーのオーナメント。
部屋全体のトーンは控えめになるのに
ひとつひとつの物が饒舌になる時間。
見えなかったものが見えてくる時間です。
カンドミノ合唱団の
フィンランドの合唱曲集。
この季節、一番よく聴くCDです。
学生時代、レンタルショップで借り
とても気に入ったので テープに録音して返しました。
ところが、あまり借り手がつかなかったのでしょうか。
数日後 お店の隅にあるワゴンにて
かわいそうなくらいの値段にて 売られているのを発見。
もちろん、再び 私が家に連れ帰り
それ以来、ずっとこの季節には欠かせない音楽なのです。
やわらかで、それでいて しっかりと大地に根付いた人間の声。
その力強さと神秘には
デッキにCDをセットして
曲のはじまりを思わず息を止めて待ちかまえてしまう、
そんな緊張感さえあります。
陰影を帯びたメロディーが多いのは
この国の歴史によるところなのでしょうか。
「唄は哀しみから生まれる」
フィンランドにそんなことわざがあることも
このCDの解説で知りました。
子供の頃に読んでいた本を
娘が生まれて 実家から何冊か持って帰りました。
折りに触れて 読み返してみたりするのですが
季節柄、この一冊を出してみました。
当時、一番親しんでいた岩波の子供の本シリーズより
「山のクリスマス」。
町の子ハンスが、チロルの山でクリスマスを迎えるお話しです。
ページを開いてみたのは 実に20年ぶりではないでしょうか。
鉛筆で印しがついていたり 小さな染みが沢山できていたり、と
あちこちに懐かしさや
20年という年月の片鱗が感じられるのですが
読み始めたら あらまあ、
覚えてる、覚えてる!
この風景。この文章。この挿絵。
「バタと、みつのついた、あたたかいまきパンとコーヒー」
当時の私は この朝ごはんのメニューに、
とりわけ‘まきパン’という響きに
憧れていたこと、
自分でつくるお話しにまで、
この‘まきパン’を 登場させていたことなど
あっという間に、
しかも つい昨日まで読んでいたような鮮明さで
すっかり思い出してしまいました。
そして又、おそらく幼い頃には読み流し、
今だからこそ 目に留まる表現も。
イヴの夜、真夜中の礼拝で教会へ入るシーン、
「くつの雪をはらって 教会へ入りました。
なかは日のさしている まひるの森のような
いいにおいがしていました」など
その筆頭です。
こんな素敵な教会の描写、
この20年の間にも 出会ったことはないくらいです。
たとえ無意識のうちにも
こうして たくさんの文章と
それが描く風景の広がりや豊かさとの出会えたことが
どれだけ幸福なことだったか、
ゆっくりぺージをめくりながら
今、あらためて思います。
夜も更けてきて さあ、そろそろベッドに入る時間。
明日の朝食にはきっと
みつをぬってパンを食べよう・・・
そんな思いに少し胸を躍らせながら
あかりをそっと消すのです。
(2002.12.20)