冬時間
雨降り卓袱台
卓袱台を買ったのは 一人暮らしを始めた18の時。
食事用のテーブルを買いにいくからといって誘った友達は
「いまどき卓袱台?」と驚いて、笑った。
店員さんは ガラスやモノクロといったおしゃれなテーブルを前に
「こんなのもありますよ」と勧めてくれたが 私はきっぱり断った。
そういうところは、絶対ひかない性格なのだ。
私が欲しかったのは ちゃぶだい。
5月最後の夜は、雨が降っていて肌寒い。
なんとなく足が畳を恋しがっていた。
和室にぺったんと座り 卓袱台の縁をもてあそぶ。
10年経っていい飴色になってきた。
サザエさんちも真っ青だ。
友達に手紙を書く。
好きな女優さんのスクラップをめくる。
ただ ぼっとリビングからこぼれてくるピアノを聞く。
窓の外の雨音も聞く。水しぶきをあげる車の音も聞く。
救急車のサイレンが鳴ると子供みたいに窓にかけよって
足についた畳の跡を発見する。
「お茶でも入れてこようか?」
卓袱台の向こうに寝転がって絵を描いていただんなさまが
身を起こしてたずねてくれた。
「ううん、いいよ、ありがと」
時間がゆっくり流れて、夜が深まっていく。
幸せが深まってゆく。
10年前、こんな卓袱台の風景をどこかで私は夢見ていたのかもしれない・・・
なんてね。