冬時間
故郷で迎える元日の朝は、
雪だった。
目覚めた地点で既にかなりの積雪だったのに
空は明るくなる気配もなく
雪はこんこんと降り続いている。
この調子では高速道路にも乗れず
きっと帰宅できないだろう。
もう少しこの場所に居られる・・・
心のどこかに
小さな蝋燭が灯されたかのよう。
本棚から古い雑誌を持ち出して、
時折、窓の外を眺めながら
ページをめくる。
道向かいのおばあちゃんの家が
雪に埋もれている。
缶蹴りでよく隠れた生け垣も、
こんもりと雪帽子。
この天候に難儀しているのだろう、
例年なら年賀状が届く時間になっても
まだ道に足跡がつくこともない。
晴れることのないと思っていた雪雲が
それでも昼前には
嘘のように流れていった。
白く静まりかえっていた世界は
一筋の太陽の光に
まるきり姿をかえてしまう。
蝋燭の灯りはふいに消えてしまった。
仄かなぬくもりをたよりに
雪に閉ざされたまま
ここに居られたらよかったのに。
でも・・・
雪の止んだ空を見上げてみる。
でも、お向かいのおばあちゃんも今はもう亡く、
雑誌は1994年のもので
缶蹴りした道には
もういくつもの足跡がついてしまったのだ。
本棚に雑誌を戻し、
帰りの荷物を整え、
気持ちも整える。
すっかり準備ができたら
新たな光が、また見えてくる。
蝋燭の火の消えたしんとした匂いは
まだ胸に漂っているけれど
代わりに今は太陽の陽射しが
大地を照らし始めた。
さあ、帰ろう、
2011年の私の場所に。
(2011.1.4)