冬時間
小豆を煮る土曜日
秋晴れの爽やかな日々が、
何日続いただろう。
こんなにも過ごしよい気候、
楽しみすぎ、なんてことは決してないのだけれど
とりあえずは、存分にその恩恵を享受していたので
満足していたのだろう。
朝、久しぶりに雨音で目が覚めた時には
どこか嬉しく、
雨降りならではの静けさに
安堵感のようなものさえ感じてしまった。
窓を開け放すと
冷たく湿った空気が入り込んできて
秋が深まりつつあることを
あらためて知る。
10月も終わりの週末だ。
予定のない土曜日。
雨降りの土曜日。
小豆を煮よう、ふと思い立った。
小豆を煮る時のにおいが好きだ。
ふくよかで、奥ゆかしい
心落ち着くにおいがする。
小豆は時間をかけて柔らかになるので
お鍋をかけている間、
他の用事と平行することができるし
お豆の煮える音と、においが
その、それぞれに伴走してくれる
時の流れそのものが
ゆるやかで、いい。
さて、いよいよ小豆も煮上がると、
それをつぶし、
同時進行で炊いておいた餅米を丸め、
おはぎを作ってゆく。
その時の気持ちは、
なんだろう・・・ケーキを作る時とは、ちょっと違う。
いっぱしの‘お母さん’にでもなった気分、とでも言おうか、
餡を作る過程の
シンプルでありながら、ごまかしのきかない感じに
背筋の伸びる思いがするし
まとわりつく子供と
上手に折り合いをつけながら作業を進めてゆく様が
記憶の向こうの白い割烹着姿と繋がっているからかもしれない。
気がつくと、雨は上がっていた。
お茶の後、散歩に出かけるという旦那さまと娘。
見送るや否や
玄関の扉が開いて。
「秋祭りをやっているよ!」
ひんやりした外気に混じって
小さくお囃子も 流れ込んでくる。
一緒に、という誘いを断って
今日はひとりで。
わっしょい、わっしょい。
じき、御神輿も回ってくるだろう。
残ったおはぎは
ラップの下に行儀よく並び、
小豆を煮たにおいが
かすかに、まだ部屋に残っている。
(2005.10.30)