時間差バイバイ
娘が9ヶ月になり、
「バイバイ」と手を振り始めた時には、
感動すら覚えた。
寝返りを打ち、お座りをし、ハイハイをして、たっちという
誰が教えるわけでもない いわば生物学上の成長とは違い、
「バイバイ」は彼女が生活の中で自ら覚え、
自らの意志で手を振っているのだから。
お気に入りのテレビが終わるとき、
こちらが「バイバイ」と声に出したとき、
彼女は嬉々として手を振っている。
手と一緒に、首まで左右するのもご愛敬。
でも娘、家族以外の人には
まだ面と向かって「バイバイ」ができない。
そもそも、相当の甘えん坊で
人見知りが激しい彼女、
毎日一緒に遊んでいるお友達の前でさえ
私にしがみつき、とりあえず号泣、
しばらくして ようやく慣れてくるという有様。
そして帰り際、
「バイバイ」と手を振ってくれるお友達に
今度は「バイバイ」が返せない。
恥ずかしそうに下を向いて
何度促しても
その手はぴくりとも動かない。
ところがある日家に戻って 気が付いたのだ。
遊び疲れて横になったはずの彼女が
天井に向かって満面の笑みで手を振っていることに!
その後も、気を付けて見ていると
お外でバイバイができない、というより
彼女のバイバイにはいつだって時間差があることに気が付いた。
本当は本人も面と向かって
「バイバイ」したくてたまらないのだと思う。
でも まだちょっぴり恥ずかしいのだろう。
あとちょっと勇気がでないのだろう。
だから、ひとりになったときに
一生懸命「バイバイ」する。
おそらく「バイバイ」してくれた人のことを思いながら。
だからあんなに嬉しそうに。
・
今日も薬局のおじいさんが「バイバイ」と
娘に手を振ってくれた。
相変わらず彼女は下を向いたままで
その手は動かない。
そのままベビーカーを押して
他の売り場へと歩きはじめたその時、
ベビーカーの中で小さな手が
もげんばかりに
左右に大きく振られているのが目に入った。
フードに覆われて見えなかったけれど
きっと首も一緒に一生懸命振られていることだろう。
面と向かってバイバイができる日が
待ち遠しいようで
今の‘時間差バイバイ’をもう少し見ていたい私も又、
とびきりの照れ屋でこわがりの子供だったらしい。
人見知りどころか
自分の影にさえ泣いていたらしいのですから!
‘ママの子なんだね・・・’
可笑しさと愛しさいっぱいに
ベビーカーを押した。
*
「えへ。私って、はずかしがり屋さ・・・
・・・ん」かどうかは、判断しかねます。
(2002.10.13)