冬時間
花を買ひきて
「友がみな 我よりえらくみゆる日よ 花を買ひきて妻としたしむ」
石川啄木のこのうたを
初めて知った中学生の頃から、
そんな気分に苛まれるばかりの思春期を経て、
ちっぽけな自分に 時に泣きそうになりながら
それでも、このうたを胸に
今も私は、ここに在るわけです。
英国の作家、
キャサリン・マンスフィールドの短編
「ロザベルの疲れ」は
疲れ果てたロザベルが
オックスフォード・サーカスですみれの花束を買うシーンで始まります。
身も心もくたくたな夜は、
私もこの小説をベッドに持ち込んで
バスのシートに身を任せ
雨にかすむロンドンの町を窓越しに眺めるロザベルのように
ただ ぼんやりと、
重い体が眠りにひきずりこまれていくのを待つのです。
どこか投げやりに、
それでも夢のその奥に、
あまやかなすみれの香りを期待して。
(2007.1.8)