冬時間



     

    にもかかわらず


    今にして思えば、
    春を前にこの詩に出会ったことは
    偶然ではなかったのかもしれない。


    ****


    五月の風にのって
    英語の朗読がきこえてくる
    裏の家の大学生の声
    ついで日本語の逐次訳が追いかける
    どこかで発表しなければならないのか
    よそゆきの気取った声で
    英語と日本語交互に織りなし

    その若々しさに
    手を休め
    聴きいれば

    この失敗にもかかわらず・・・・・・
    この失敗にもかかわらず・・・・・・
    そこで はたりと 沈黙がきた
    どうしたの?その先は

    失恋の痛手にわかに疼きだしたのか
    あるいは深い思索の淵に
    突然ひきずり込まれたのか
    吹きぬける風に
    ふたたび彼の声はのらず
    あとはライラックの匂いばかり

    原文は知らないが
    あとは私が続けよう
    そう
    この失敗にもかかわらず
    私もまた生きてゆかねばならない
    なぜかは知らず
    生きている以上、生きものの味方をして


    ****


    詩の中の「失敗」という言葉を
    入れ替えてみる。
    「哀しみ」あるいは「やるせなさ」に。
    「苦しみ」もしくは「切なさ」に。

    にもかかわらず、やはり私は生きていて
    長いため息と共にそれら全てを吐き出して
    いつの間にか 今年の春は暮れていた。


    折しも、世界のあちこちから
    想像を絶する災害に見舞われ
    涙に暮れる人々のニュースが飛び込んでくる。
    この現実をどう受け止めよう。
    にもかかわらず
    私達は生きていかなくてはならない・・・のですか。
    にもかかわらず
    私達は生きていかなくてはならない・・・のですね。
    晴れ上がった青い空に
    確認するように、訊いてみる。
     


    「落ちこぼれ」茨木のりこ詩集より
    (理論社)


    (2008.5.18)



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