冬時間
如月日記
某日
お天気のよい日曜日。
思い立って、香川の金比羅さんへ。
年が明け、誕生日も迎える1月は
毎年、気持ちを切り替えるよい機会となるのに
今年はどうもぼんやり、
出足が鈍い自覚があった。
初詣さえ、2月という有様。
ひたすらに続く階段を上りきり、
手を合わせる。
そして気がつく。
そうなのだ、止まっていては
体はいつまでもあたたまらない。
一歩でも、二歩でも、歩き出して、
ようやく体はあたたまり始める。
体があたたまると、
心も上を向いてくるものなのだ。
心が上向きになると、
ほら、自然に走りだしていることもある!
家族のこととは別に
私自身の志もしっかり確認。
今年は軸にしていきたい3本の柱がある。
2月にして、ウオーミングアップ完了。
体も心もようようあたたかに。
某日
県内の若きバイオリン奏者の演奏会に娘と出かける。
最年少、小学5年生の少年の演奏に
心をまるごと奪われる・・・
なんて小ぎれいな表現ではちっとも間に合わない。
目がまんまる。土肝を抜かれる。ガツーン!
そんな感じ。
弓でバイオリンを弾いているというより、
全身で音楽を奏でている・・・
いや、彼自身が音楽になっているという印象。
モーツアルトはかくや。
才能とはいかにも。
ヴィエニャフスキの「創作主題による華麗なる変奏曲イ長調 Op.15」
帰宅してすぐに音源を探す。
某日
夜10時集合。
メールを見て一瞬目を疑うけれど
翌日は祝日、
何の異存がありましょう。
子供達を寝かしつけて集まるは
以前、地域の情報誌制作に携わった三人。
チョコレイト、お漬け物、バーニャカウダ、
ワインにコーヒーなどなど。
普段は、電話もメールもほとんどしない。
近所に暮らしていても、
子供達が同じ小学校でも
決して頻繁に会うわけでもない。
それなのに、それなのに
もはや、手も口も止まらないのは何故?
しんと静まり返る
おいとまの時間。
日付の変わった住宅地を
現実に戻る母は どこかシンデレラの気分。
飲めない私が持参したのは、
この冬のお気に入り、ARTISANのビスケット。
ミルクティーにとてもよく合う、納得の英国生まれ。
とりわけVANILLA&CREAMが好みです。
某日
ここ数日の厳しい寒さがほどけ
久しぶりに息子をお散歩に。
近所の方とのおしゃべりに気持ちよく帰宅し、
汗ばむ上着を脱いだところで
いとこの訃報を受ける。
真昼のリビングは明るすぎて
息子にご飯を食べさせながら
私は放心している。
機械的に手を動かし、笑顔をつくりながら
放心している。
彼が生まれた時、私はもう中学に入っていたから
小さい時の、
とりわけ、今の息子くらいの時の彼が一番印象深い。
成長してからは、そこは男の子。
親戚の集まる席の端で、
照れた風に、言葉少なに座っていただろうか。
享年26歳。
駆け出しの新聞記者だった。
検索をかけて
彼の書いた記事をオンラインで初めて読んだ。
泣いた。
某日
葬儀が終わり、
駅の長いエスカレーターに運ばれながら
「昔みたいだね」
妹がつぶやいた。
父、母、私、妹。
4人でこの街に居るなんて。
K君、あなたが生まれた時も
私達家族4人で
この街にお祝いにやってきたんだよ。
某日
冷たい風と共に玄関に飛び込んできた娘、
開口一番、
「ママ、大変!ズボンに穴があいちゃった!」
徒歩10分の公立小学校に通うとはいえ、
週の半分は帰宅が4時半を過ぎるのだから
今どきの3年生は なかなか忙しい。
だからこそ、放課後遊べる日は
全身全霊。全力投球。
「小学生の間くらい、のうのうと子供であってほしいよ」と万蔵氏。
無鉄砲に、心の赴くままに
まさに、良い意味で「のうのうと」だと、
私も深く頷く。
子供でいられる時なんて、そう長くはないのだから。
それにしても派手に遊んだなあ。
私も相当のうのうと子供時代を送ってきたけれど
そんな大穴、見たことないぞ。
修復可能かしらん、そのズボン。
もう10年以上も前、
英国滞在中に万蔵氏と妹にそれぞれ送ったポストカード。
小説の挿絵のようですが
最近になって中央の女の子が
娘に似てると二人から。
いたずらっぽく笑う表情が、確かに!
某日
書店で偶然に見つけて
「どうしよう、どうしよう」と
鼓動が速くなる。
買おうか否かのどうしようではなく、
嬉しすぎて、どうしよう、どうしよう。
東山魁夷氏の
「北欧紀行 古き町にて」
帯には‘待望の復刻普及版’の文字。
某日
国こそ違えど、
初めて海を越えたのは、
私も彼らと同じくらいの年齢だった。
この現実をどう受け止めたらいいのだろう。
連日の報道が苦しい。
某日
今年度最後の参観日。
教室を覗くと、娘はカーディガンを脱いで
半袖になっている。
ベビーカーを押す帰り道は、
ぽかぽか陽気。
(2011.2.28)