冬時間
京の覚え書き
北山で下車。
冬の植物園は閑散としています。
こわいくらいの静寂を破るのは
木立から飛び立ってゆく鳥の羽音。
視界の隅に 控えめに時折現れるのは
枯れ色の中で静かに作業する
寡黙な庭師。
ひとつ、ひとつ、名前を確かめて歩く
薔薇の茂み。
乾いた噴水や 物語じみた温室。
冬の植物園で息づく色が、聞こえる音が、生まれる風景が
私は好きです。
ちらちらと雪も降りだして
それでも黄水仙が春を待つ植物園を後に。
ラ・メランジェのあたかたい雰囲気は昔のままで
すっかり冷えた体に
お茶がゆっくりと染みわたってゆく至福のひととき。
丁寧に、愛情をもって注がれたお茶と
整いすぎず、雑然すぎずの店内。
ただ 様々なカップやお茶の缶を眺めてすごす時間が
私は好きです。
どこへ行く、と決めなくても楽しいのは
かつてここが暮らした街だからか、
気のおけない妹と一緒だからか。
ただ、ただ 寒くて静かな土曜の午後。
是非 訪れたい、
そう思っていた母校へは行きませんでした。
荷物をロッカーに預けて
地下鉄のホームに降りた、その瞬間に
その必要がないことに気がついたからです。
体がこの雑踏を忘れた頃に また来よう。
心がこの高揚を懐かしく思い出す頃に また来よう。
下車するはずだった駅を見送りながら
ちょっぴりの切なさと共に、京言葉を聞いているのが
私は好きなのです。