冬時間
水無月
・車窓から・
梅雨入り前のとある日、
めったに乗らないローカル線で
取材先に向かう。
なんとなく落ち着かず、
資料を見直したり、メールを確認したり。
ふと、顔を上げると
流れる車窓から、
どこかの小学校のプールが見えた。
あいにくの曇り空の下、
プールサイドに並ぶ子供達。
背格好からいって まだ低学年だろう。
その年初めてのプールの水は
いつだってとても冷たくて、まだよそよそしい。
足だけをつけると
こんな中に入れるのかとちょっと躊躇してしまうほど。
ゆらゆら揺れる水面も 心細さを誘う。
でも一度、ざぶんと入ってしまうと
あとは案外、平気だったりするものだ。
一瞬の間に、そんなことを思いめぐらせて
遠ざかっていく光景を見送った。
娘も今日がプール開き。
今頃はプールサイドで水を見つめているだろうか。
まずは ざぶんと入ってみよう。
心の中で娘にエール。
それはもちろん、自分へのエール。
もうすぐ電車が目的地に着く。
駅には‘はじめまして’の人が待っているはずだ。
携帯をパタンと閉じて、深呼吸をした。
・6歳児の情景・
‘どんな事の中にも楽しさを見出すことができる’
それが娘のよいところ。
年齢的なものもあるかもしれないが
私自身のその頃のことを思い出すと
やはり、それは彼女の個性だという気がする。
万事、物事は多面的で
ポジティブな面ばかりではないけれど
それでも、いつも明るい方に目を向けて、
それを楽しむことができるのは
とても素敵なことではないだろうか。
小学生になって、三ヶ月。
成長と共に、難しくなってきたと感じることもあるけれど
曇りのない笑顔が、今日もここにある。
「ママ、今日も楽しい一日だったね!」が
寝る前の彼女の口癖だ。
・心を奪われる・
本でもネットでも、いつでもどこでも
ため息のでるようなきれいな写真や
洒落た読み物などが 楽しめるようになった。
「イギリス」についても然り。
次から次に現れるそれらに、ひととき目は輝くが
その輝きが続くかと言えばそうでもなく、
また次の瞬間、新しいものに心が奪われ・・・
いや、奪われているのは心ではなくて
目だけだったのだなあ。
そんなことに気がつく。
気づかせてくれたのは、
石井桃子さんの「児童文学の旅」。
ここに収録されている‘イギリス初夏の旅’は
正真正銘、心に響くものだった。
記されているのは石井さんが
1972年(私の生まれた年!)に渡英された時のことだ。
かしこまった語り口ではなく、
むしろ淡々とした
流れるような旅の記録といった風合いだが
しみじみと読み進み、
サセックスの青い丘に、
心の奥から押し上げられるような憧憬を感じずにはいらなれなかった。
イギリスに行きたい!
こんなに本気で思ったのはどれくらいぶりだったろう。
全編通して、正直でまっすぐな文章も印象的だった。
英語圏で生まれた「ちいさなおうち」や「プーさん」が
このような人の手によって日本語に翻訳されたなんて
私達はなんと幸福だったのだろう。
まさに、心奪われた一冊だった。
*現在「児童文学の旅」(岩波書店)は絶版ですが
‘イギリス初夏の旅’は「石井桃子集6」(岩波書店)に収められています。
・that is the question・
何を選びとり、何を捨て去るか
決断するって本当に難しい。
立ち止まり、途方に暮れ、
それでも時計の針は待ってくれなくて。
ケーキ屋さんの店先での話・・・
だけではなくて!
(2008.6.29)