冬時間
Do you know how much we love you?
いよいよ出発の時間が近づいて
空港のある町行きの高速バスが姿を現すと
涙目の彼女はもう一度、
そこに集まった私達一人一人をしっかりと抱きしめ、
そして、子供達一人一人を抱き上げて 言葉をかけた。
「あなた達との思い出が、日本での一番の思い出よ」
真夏日を記録した一日。
駅前の大通りの温度は、
どこよりも、高かったに違いない。
娘のプリスクールで一年半担任をしてもらったG先生が
他国のプリスクールへ移る為に退職となった。
この夏でお別れだということは、
随分前から知り、
自分なりに覚悟を決めてきたはずなのに、
同時に、彼女と別れる日なんて
永遠に来ないかもしれない、
明日もスクールに行くと会えるかもしれない、
常にそんな錯覚を覚える中で、
ついに最後の日を迎えたのだった。
工作でも、ダンスでも、ABCでもなく、
‘自分を認めてもらっているのだ’という実感こそが
子供達が彼女から受け取った最大の贈り物だったと思う。
目には見えないけれど
その実感のもたらす 大きな安心感は
幼い子供達の糧となり、力となり、
その心にどっしりとした土台を築いたことだろう。
そしてそれは、
「互いを敬い尊重する中で、自分らしく生きていく」という
彼女が常に子供達に伝えようとしていたことに
繋がってゆくのだ。
人生最初の社会生活の場で、
また、家族以外で、初めて密に接する大人として
彼女のような先生と出合えたことは
大きな財産に違いない。
バスを見送ると
目を赤くした一同の間で、ちいさくため息がもれた。
高揚の後に訪れる脱力感が
暑さと共に 一気にまとわりついてきて
しばらく皆、そこを動くこともできない。
子供達だけは すっかり笑顔ではしゃぎあっているけれど
それは別れの意味を実感できていない、ということではなく
「だって、G先生はgood byeじゃなくて ‘see you’って言っていたよ」
おそらく、そういうことなのだ。
心からそれをを信じているのだ。
それに see you tomorrowがsee you somedayに変わることは、
そんなに悲しいことじゃない、ということも。
見上げると
夕暮れ間近の夏空が広がっている。
この空は 彼女が向かう国にも繋がっているんだなあ。
溢れる思い出と、胸いっぱいの感謝が
どこまでも 続く夏空のように
とどまることなく、込み上げてきて
私はもう一度、涙をふいた。
(2006.7.13)