みっつのはなをぼうしにつけて
まるでポターのピーターラビットシリーズのように
手のひらにのる小さな本。
3つの花の飾りのついた帽子と、女の子のお話。
ほんの数ページのささやかな絵本を
娘のお誕生日に贈りました。
絵は万蔵氏、文は私の担当です。
着想から半年以上、
随分時間がかかってしまいましたが
できあがった本は それだけに思い出深いものに。
本創りにまつわるエピソードをまとめてみました。
・まず、帽子ありき・
絵本を創りたいね、と話してはいたものの
具体的な案があったわけではない初夏、
娘の夏帽子を買いにでかけた先で
はっとするような帽子を見つけました。
ごくシンプルな麦わら帽子に、
紫、水色、白、それぞれの色のレースで編まれた
小さなお花が3つ。
すべて寒色でありながら
優しく爽やかな色の連なりに目を奪われました。
白だけ、水色だけ、という風に一色なら
これほどまで心惹かれなかったかもしれません。
その帽子についたそのみっつの花は、
三色が寄り集まっているからこそ
単色の時にはない、なにか特別な輝きを得ているように感じました。
そして、ひらめいたのです。
この帽子を物語にしよう。
女の子と帽子の物語にしよう、と。
・こんな本にしたい・
帰りの車の中では
アイデアがどんどん涌いてきて
話が尽きませんでした。
こういう時間は本当に楽しいものです。
結局、ふたつのことを決めました。
ひとつは、完成しないお話であること。
つまり「・・・でした、おしまい」ではなく、
ページの先に、未来に、続く物語にしようということ。
それは、これからを生きてゆく娘への贈り物として
とても素敵なアイデアに思えました。
ふたつめは、長く楽しんでもらえる本にしたいこと。
今だけでなく、大人になっても
ページをめくりたくなる一冊になれば嬉しい。
つまり、2才の時も、30才が来ても、70才になっても
ちゃんと受け止めてもらえる本にしたい。
絵はともかく、文章に関して
はじめ、それは難しいことのように思えましたが
実際はじめてみると それが嬉しい思い過ごしでした。
結局のところ 正しく美しい言葉というものは
分かりやすく 簡潔なものであり、
それには、子供と大人をわざわざ意識する必要はなかったからです。
・色に想いを込めて・
ほんの短いお話です。
紫、水色、白には
それぞれの色から受けるイメージを重ね、
そこに私達の想いをも込めました。
例えば紫は、その趣のある深淵なイメージから
つよく、やさしく、そして ふかく
心に響く詩のイメージを。
水色は、ゆたかに、きよらに
大地と心を潤す雨のイメージを。
本の中で、女の子はそれぞれの色の花に出会い、
ひとつずつ それらを帽子につけてゆきます。
最後に出会う花は白。
まだ見ぬ世界の色、
無限の可能性を秘めた色としての白です。
そんな風にして、女の子は花と出会い
最後の一行、
「きょうもまた、たびを つづける」と共に、
物語は続いてゆく・・・・
そんな物語です。
・そして娘に・
一年前、一歳ののお誕生日の頃の娘は
聞こえてくる音や言葉にとても興味を示していました。
そして二歳、
たいていのことはお話しできるようになった彼女の今の最大の関心事は
書かれている文字です。
ひらがなであれ、アルファベットであれ
自分が読めないものがあれば
「これ、なあに?」と聞いてきて
親が読んでいる新聞や本を覗き込んでは、
自分の知っている文字を見つけることが楽しくて仕方ない様子。
ですから、娘の好きな動物や乗り物も登場する
ひらがなだけで書かれたこの本は、
その絵も字も、響きも
今なりの楽しみ方をしてくれているのだろうと思います。
願わくば、
この先、年を重ね、ページをめくるごとに
そのときどきの楽しみ方をしてくれるならば。
帽子ではなく
お洋服におはなをつけて、
ちょっぴりおめかし、な誕生日の夜。
2才になったね、おめでとう!
どんな旅をしてゆくのかな。
(03.12.10)