冬時間
新しい風景
〜9歳を迎えて〜
「ピアノと一緒になると、風景が変わるよ!」
バイオリンの発表会が近づいて
ピアノとの合わせ練習に入ると、
娘は声を弾ませた。
伴奏が入ると入らないとでは
音楽の印象が
つまり、見えてくる風景が違ってくるということだろう。
長めのコンチェルトに挑戦した今年の発表会。
練習を重ねるごとに、楽器のあたる首に傷ができ、
出血することもあったけれど
音を上げることはなかった。
バイオリンの発表会のあった9月以降は、
文化祭や老人ホーム訪問など
毎月のように合唱部の行事。
秋の歌と共に季節が深まっていき、
11月の誕生日と時を同じくして行われた小学校の面談では
「名前の通りに育っていらっしゃいますね」と担任の先生。
今は今年最後のイベント、
クリスマスコンサートを控えており
確かに最近の彼女には
いつも新しく歌う歌があり、奏でる旋律がある。
一方、誕生日を前に
4歳で始めたバレエには終止符を打った。
バイオリンもバレエも、
先生についてのレッスンはもちろん、
毎日の練習が欠かせない。
今後、真剣に取り組むならその時間は増えていく一方だから
どちらも続けていくには
さまざまな面で制約が大きくなる。
まだまだ充分な余白を残してあげたい小学生。
放課後や休日には お友達と自由に遊び回ったり、
好きな絵や工作に没頭したり
何もしない時間を満喫したり・・・
そんなことをもっと大切にするには
どちらかに絞る方がいいのではないだろうか。
バレエを嫌いになったわけではなかったので
家族皆で考えた。
その才に長けているようには見えなかったけれど
5年間、ただの一度もレッスンに行きたくないと言ったことはなかったし、
レッスン中に太腿の肉離れをおこして踊れなくなった時も
見学のためだけに、一ヶ月スタジオに通っていたほどだ。
バレエの世界を存分に楽しんでいたように思う。
でも、どちらの方がより好きかということは
彼女自身の中でも既に感じていたらしい。
「バレエは好きだけど、バイオリンの方がもっと好きだし
自分にあっていると思う。」
いざ決断という際、離れ難さを感じたのはむしろ私の方で、
娘はすっきりとした表情だった。
「私はバイオリンをもっとやっていきたい!」
娘を産んで、もう9年。
これまでの子育てを通して
強く感じていることの一つは
「新しい世界を見せてくれてありがとう」ということ。
自分だけでは知るよしもなかった未知の風景に
子供が導いてくれたことがなんと多いだろう。
バレエしかり、バイオリンしかり、
いや、子供と暮らすいう毎日の日々そのものの中に
新しい世界との出会いは散りばめられている。
その中で私もまた、育てられていった。
感謝の気持ちでいっぱいだ。
娘も来年にはもう10代を迎える。
‘豊かな調べを奏でるような人生に・・・’
名前には確かにそう願いを込めたけれど
何もそれは音楽だけのことではない。
音や楽器の組み合わせで
メロディーの可能性が無限に広がっていくように
人生もひと色ではなく、
色彩豊かなものになってくれたら・・・
そう思ったからだ。
今、彼女が夢中になっている音楽の扉の前には
ある意味、私が手を引いてきたとも言えるかもしれない。
でもこれからは自分自身で出会ったり、発見したり
また、切り開いていく世界もでてくるだろう。
この先、どんな風景を見せてくれるのか
今からとても楽しみにしている。
9歳のお誕生日。
贈り物は3つ。
一つ目は文房具やさんでキラキラの鉛筆やノートなど
かわいい文房具を選ぶこと。
(選んでいる時の目もキッラキラ!)
二つ目は詩集。
(雨の詩ばかりを集めたすてきな一冊 「ONE BIG RAIN 」)
そして、三つ目は
バイオリンモチーフの愛らしい刺繍を見つけたので
小さな額に入れてみました。
まだまだ練習は親子の共同作業。
一緒に頑張ろう、の気持ちの込めて。
(2010.12.05)