冬時間
Tea for Two
大通りからはずれた路地に
ひっそりと店を構えるティールームを知ったのは
以前、たまたま通りかかった時だった。
窓の外の小さなテーブルに
お茶のメニューと
アフタヌーンティーの三段トレイがディスプレイされ
いつか、と期待が高まる。
思い立ったのは、金曜の午後。
娘がスクールから帰るなり、急いでバスに飛び乗って
ざくざく歩いて、緑色のドアを開け、
いざ、白いクロスのかかった丸テーブルに
あちらと、こちら、
向き合って座る。
他には年輩の女性客が二人ほどいらっしゃるだけ。
平日の静けさが嬉しい。
はじめてのティールームでメニューにそれがある限り、
それ以外のものはきっと選ばないだろう
クリームティー*を注文して
茶葉はアッサムをお願いする。
娘は散々悩んで いちごのタルト。
落ち着いてゆっくりと見回すと
オーナーの夢が詰まっているのだろうと思われる
やさしいしつらえは
女同志のTea for twoにはぴったり。
娘は「かわいい」と目を細め
私は自分の書いた記事が掲載してある紅茶特集の雑誌を見つけ
ちょっぴり頬も緩む。
物腰のやわらかなオーナーは、
「ご存知とは思いますが・・と」と遠慮がちに
けれども きちんとスコーンの食べ方を説明してくださったり
(ええ、もちろん。
横にナイフを入れてジャムとクロテッドは’てんこもり’ですね、と心の中でいい返事。
上品なオーナーの口から‘てんこもり’なんて言葉はでてこなかったけれども!)
ミルクティーのことを「Tea with milk」とおっしゃられたり、
随所から紅茶や、お店へのこだわりが感じられる。
英国で紅茶のことを学んでこられた方だとお見受けした。
たっぷりとお茶の時間を楽しみ、
お会計に立つと、
「お二人を見ていると 娘が小さかった頃を思い出しました。
そうやって よく一緒におでかけしていたんですよ。」と
白いエプロンのオーナーが微笑まれた。
その瞬間、いろんな想いがこみあげてきて
何か言いたいと思った。
聞いてみたいとも思った。
紅茶のこと、英国のこと、娘さんとのこと・・・
けれども それらの気持ちがないまぜになり
結局 言えたのはただこれだけだった。
「とても美味しかったです。ごちそうさまでした」
緑色のドアを開けると
寒空の下、娘は早くと手を引いて先を急ぐ。
‘Tea for two。また来ようね。’
そんな思いで、繋いだ手にぐっと力を込めた。
*イギリスでクリームティーと言えば、
ミルクティーとスコーン(ジャム&クロテッドクリーム)のセットのこと。
Ryeの町で見つけた小さな小さなティーセット
Tea for two〜ふたりでお茶を〜という名前がつけられていました。
(2008.2.08)