冬時間
「浜辺の歌」
のびやかに、体の芯まで響いてくる
マイスキーのチェロで
「浜辺の歌」を聴いたのは、昨年の晩秋のことでした。
出産の入院時に、家族に録画を頼んでおいた番組でこの曲が演奏された時、
なんと美しい旋律なのだと感激し、
同時にこれが「浜辺の歌」だということに 少し驚いたものです。
音楽の授業でこれを習った中学生の時、
それは特に魅力的には思えず、むしろ退屈な曲のひとつでしかなかったから。
ところが、今、まさにこみ上げてくるこの感激はどうでしょう。
同じく、その場で演奏されたバッハやシューベルトが霞むほど
私はその調べに心打たれ、
気がつくと、涙が落ちていました。
出産に伴う緊張感から初めて解き放たれたように感じたのも
この時でした。
難航していた娘の名前選びが
私の中で固まったのも まさにその時。
最終候補の2つの名前はどちらも捨てがたく、
ふたりして決められずにいたのですが
マイスキーの奏でるチェロを前に
こちらにしたい、と
はっきり言えるだけの想いが定まったのでした。
そして数日後、
娘の名前は正式に決まりました。
音のように、言葉のように
豊かで美しい調べを紡ぐような人生を・・・
そんな願いを込めて。
毎日、毎日、VTRを巻き戻しては
生まれたての娘を腕に何度も聴いた「浜辺の歌」
あれから9ヶ月が経ちましたが
その感銘は色あせることなく
この夏も何度も耳を傾けました。
中学生の頃、定期テストの前にしぶしぶ暗記した歌詞にも
今はしみじみ思いを寄せながら。
‘あした浜辺ををさまよえば、むかしのことぞしのばるる・・・’
(成田為三 作曲 ・ミッシャ マイスキー<チェロ>)
(2002.8.31)