Blue willow のある食卓
    ーEveryday with Bluewillowーー












    青缶の春







    誰にでもその人ならではの風物詩があると思うのですが
    私にとってリプトン青缶は、春のそれ。
    一年中、キッチンの目に入るところにあるに関わらず
    春先には、その存在感がぐっと大きくなります。






















    緑と水色の中間のようなノスタルジックな色合いが
    この季節の日差しや、揺れうごく気持ちと響き合う、
    まさに、「春はあまくて、しょっぱくて」な
    私的風物詩です。









     








    先日、故郷に帰省する機会がありました。
    久しぶりにザビエルの丘に登ると
    母校の建物が見えました。
    そんなことを思ったことなどなかったのに
    あらためて見ると、なんだか青缶みたい!
    こちらにも、甘くてしょっぱい思い出があります。





    この建物は「記念館」と呼ばれる大正時代の洋館で
    当時は、管弦楽部の練習に使われていました。
    文武両道を謳う、憧れの高校でした。
    中学校時代に吹いてきたフルートをここで続けることが
    受験を乗り切るモチベーションでもあったのです。
    入学後すぐに部活見学に行き
    焦がれた制服に身を包み、目の前で演奏を聴いたのでした。
    美しく威厳ある内装も、先輩の演奏も
    圧巻で、身も心も震えるほどでした。





    でも、入部しませんでした。
    入部できなかった。
    私は、怖気づいてしまったのです。
    学校も建物も先輩も音楽も
    すべて、立派すぎるものに映ってしまった。
    自分にはとうてい叶わない、
    突然、そんな感情の大波に囚われて
    手に入れた憧れの目前で自ら身を翻してしまったのです。
    一緒にここを目指してきた友達は入部しましたが
    私だけ、ふいと道を外れました。
    あたかも、他によりよき道を見つけたふうに
    もっともらしい理由をつくり、
    笑顔でそれを貫き通しました。
    友達にも、そして自分自身に対してさえも。
    そんな15歳の春でした。





    あの時の自分は怖気づいてしまったのだ。
    そう認め、言葉にできるのは
    今だからこそ。

    ずいぶんと長い時が流れました。
    まだ少し冷たい春の風に吹かれながら、
    青缶のある故郷の風景を眺めました。
    やっぱり、春は甘くて、しょっぱくて!







     

    (2026.3月14日)