各駅停車のローカル線で気の向くままに下車をして
イギリスの小さな町や村を散策してみたい。
いつかは・・・と思い続けている夢のひとつです。
そう。たとえば、こんな風景を巡る旅。
こちらは鉄道さえ通っていない
デヴォン州のDrewsteigntonです。
村の入口はご覧の通りで
藁葺き屋根の民家のそばに、
村の名前を示す看板がひとつ立てられているだけ。
干し草や家畜を荷台に積んだ地元のトラックが
ときおり通り過ぎてゆき
あとはまた静かな時間が流れます。
教会とパブ、
そして郵便局を兼ねた雑貨屋。
イギリスではどんな小さな村でも、
この3つだけは必ずあると言われていますが
こちらもまさにその通り。
民家以外は 本当にこれくらいしかありません。
なにしろここが村の中心なのですから
村の規模など推して知るべし、でしょう。
さて、折しもこの村の中心には
かわいらしいカラフルな旗が揺れていて
その中に催し物案内の看板が立てられていました。
‘教会内にてフラワーフェスティバル開催中’
フェスティバル、の名に似つかわしくなく
教会の中は、ひんやりひっそり、
空気の流れまでもが止まっているような静けさです。
それでもゆっくり歩いてみると
所々にドライフラワーの束や、
果物の籠、又、いかにもホームメイドの焼き菓子などが
ぽつり、ぽつり、と置いてあり
これがフェスティバルなるものの一環なのだろうかと
林檎の種類や パイの焼き具合を気にしてみたり。
はたまたフィリップ・ラーキンの詩を思いだしてみたり
天井を見上げてみたり
高窓から差し込んでくる光の中を
ホコリがきらきらと漂う様に
しばし見とれたり。
ささやかなフェスティバルに別れを告げて
教会裏手を少し歩きます。
お墓参りに来た人のためでしょうか、
敷地の隅っこでベンチがぽつり。
見下ろせば波打つばかりのデヴォンの田園に
何度も深呼吸をし、
ああ、これこれ、いいなあ、だなんて
ここに永遠の眠れる場所を持てる人達を羨んではみるものの、
旅人としての身勝手な思いであることは
もちろん よく解っているのです。
今はただ、このわがままな自由に遊ぶしあわせ。
教会の敷地を離れ、住宅地に。
長閑な午後の日差しに
家々はどこか眠たげです。
くっきりと縁取られた影を見ていると
辺鄙なイギリスの片田舎というより
どこか瀟洒な南ヨーロッパの町に迷い込んでいる、
そんな錯覚に陥りそう。
このまま午睡を貪りたい気持ちを抑えつつ・・・
明日はロンドン近郊のビーコンズフィールドまで
モーターウェイを飛ばさなければなりません。
1998年9月21日
いよいよ 結婚式なのです。
ロンドンまで数百マイル。
でも結婚は、
もっともっと長い道のりを共にするための誓い。
一体それは何マイルあるのか、
とうてい予想もつかないけれど
「目的地へ着くことよりも
目的地へ向けて旅することを大切にしたい」
結婚式を前にトラブル続きで苦しんだ私に
彼は そう言ってくれたから、
きっと旅路は楽しくなるでしょう。
いざ、ゆかん、
のどけき村を後にして!
そして又、旅の仲間と共に
またこんな風景を巡る旅ができますように。
(2002.9.21)