Blue willow のある食卓
ーEveryday with Bluewillowーー
毎年、子供達のバイオリンの発表会でお世話になる ピアノの調律師さんがいる。 表舞台には出ることのない職業そのままに たたずまいも装いも、 さりげなく、控え目で、空気のようだ。 でも先生は絶大な信頼を寄せていらっしゃり 発表会の日程も、調律師の彼女の予定に合わせるほど。 空気は見えないけれど、 なくてはならない必要な存在。 空気が澄んでいれば、すべてが変わる。 小説「羊と鋼の森」を読んだ年、 発表会後の食事会で 偶然、彼女と隣の席になった。 ゆっくりお話しするのは初めてだったので 私から小説のことを切り出したように記憶している。 「羊と鋼の森」は、調律師が主人公の小説だから。 まだ、この作品が賞をとったり、映画化される前のことで 華やかにライトを浴びるよりは まさに森の中で、木々の梢から漏れくる光を受けているような小説だと思っていたから ご存知なくても不思議はない。 そう思いながら、ただひとときの話題に持ち出した。 「私も、読みました。」 でも、彼女は微笑ながらおっしゃったのだった。 そして、調律師としての率直な感想を語ってくださり 私の質問にも丁寧に答えてくださった。 調律ということが少しだけ身近に感じられた 楽しい時間だった。 映画「羊と鋼の森」を観に行った。 調律師という職業の森に分け入った青年が 彷徨いながらも、光を見つけようとするひたむきな過程が 繊細に映像化されていた。 「音」と同じくらい「静寂」が物語る映画だったと思う。 息を詰めて、静寂の行方を見守るようなシーンが いくつもあった。 映画に関しては特に何の情報も持たず観に行ったので ショパンのピアノソナタ第3番が使われていたこと (私自身の人生においても「彷徨っていた」時、 どれだけこのソナタを、聴いて聴いて聴いたことだろう。) 主人公が勤める楽器店のペンダント照明の数々が好みだったことも嬉しかった。 (「灯り」の美しい映画でもあった。) 満足してエンドロールを見送り、 調律師の彼女も観ただろうか、とふと考えた。 バイオリンの発表会まであと三ヶ月。 今年も彼女と会えたなら、 映画の話もしてみたい。 「才能がなくたって生きていけるんだよ。 だけど、どこかで信じているんだ。 一万時間を越えても見えなかった何かが 二万時間をかければ見えるかもしれない。 早くに見えることよりも、 高く大きく見えることの方が大事じゃないか。 はい、と答える声が掠れた。 簡単にはうなずきたくはない。 ほんとうにわかったのかと聞かれれば、自信はない。 だけど真実だと思う。 才能があるから生きていくんじゃない。 そんなもの、あったって、なくたって、生きていくんだ。 あるのかないのかわからない そんなものにふりまわされるのはごめんだ。 もっと確かなものをこの手で探り当てていくしかない。 原作を読んだ時、ノートに書き写していた文章が 今の私には、より一層、響いてくる。 「コツコツです」 仕事がうまくできるようになるには?という新米の問いに 先輩調律師がそう答えるシーンがある。 ひたむきに、コツコツと。 それはどんな仕事に関しても言えることだろう。 あるのかないのかわからない そんなものに振り回されることなく、 確かなものを自らの手で探り当てていくために。 * 引用 「羊と鋼の森」宮下奈都(文藝春秋) 三枚目の写真は、映画のパンフレットから。 (2018.6.23) |
週末 土曜の午前中に、息子のバイオリンレッスンに。 週末の予定は、それだけにして あとは、いつもより少し丁寧に家を整えたら スーパーマーケットで食材を買って 次週分の常備菜やお弁当のおかずを仕込んだり、 図書館に寄ったり、 子供達と遊んだり勉強したり。 なんてことないけれど、 これが今の自分にとって 一番落ち着く週末の過ごし方だ。 ワンマイルの休日。 平日の慌ただしさで、雑然とした自分やその周辺を こんな休日が、整えてくれる。 整うことは、気持ちがいい。 目に見えるもの、見えないこと、 それぞれが整うと 視界がクリアになる。 ワンマイルの休日は リセットとリフレッシュの大切な時間。 でも、今週は変化球。 来月に迫った修学旅行の買い物に娘と出かけた。 せっかくなら・・・と、 カフェで朝食。 明るい陽射しに、心地よい活気。 コーヒーは香しく トーストは香ばしい。 申しぶんない一日のスタートに 大好きなエッセイの一節を思い出す。 無事に買い物をすませたら、今度は、食材を調達。 明日は息子の運動会。 早起き必至の日曜日となる。 わくわくしたり、ドキドキしたり、 新しい味や風景に出会ったり。 ワンマイルの週末にはない、 少し特別なウィークエンド。 こんな週末も、もちろん素敵。 ときどきで、いいけどね。 ΩΩΩΩΩΩΩ 生地にもクランブルにもシナモンをきかせたマフィンは ワンマイル週末の朝のために。 なんでもない週末、おめでとう! そんな気分で木漏れ日のキッチンに立って。 (2018.5.26) |
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