Blue Willow のある食卓 vol.30
どんなものと合わせても
いつも新鮮な驚きをくれるブルーウィロウ。
はっとさせられる瞬間を
暮らしの中から切りとって。
‘オクスゴッドビー’ その地名を初めて耳にしたのは 今のように、何でもすぐにパソコンで検索できる時代ではありませんでした。 身近に調べられる方法は、全て手を尽くし 果てには、詳しい地図まで取り寄せて 懸命にその地名を探したことが思い出されます。 結局、それはヨークシャー地方の架空の村名だったのですが この‘オクスゴッドビー’こそが、 「A Month In The Country」(ひと月の夏)の舞台。 それは、物語の冒頭で、 雨の降りしきるオクスゴッドビーの駅に降り立った 壁画修復工の青年が 村の教会でひと夏を過ごす物語です。 映画化されたのが、1987年。 原作はJ.L Carrという作家が1980年に発表した小説で Carrはこの作品でガーディアン賞を受賞しています。 BS放送していたものを録画し 一体何度繰り返し観たことでしょう。 その後、再放送はもちろん、 レンタルショップでも見かけることはなく、 すり切れそうなビデオだけを大切にしてきましたが、 先日、それがDVD化されたことを知り、 嬉しくて、嬉しくて、すぐに手に入れました。 戦争後遺症といった、重いトピックを含みつつも 物語の展開はじめ、 雰囲気や音楽に至るまで あくまでも淡々と、静かに流れていくさまは イギリスの風景や、時代の空気感とも相まっていて なにか、一つのかけがえのない世界のよう。 邦訳をされた小野寺健氏は、こう記されています。 「映画を見、原作を訳してみて つくづく、われわれの知らない、いい作品があるものだと思いました。 そしてこれまでの経験でも、 そういう目立たないものが英国文化の最良の部分を表現している場合が少なくないのです。 展覧会へ行くと、名前を聞いたこともない画家の小品なのに ちょっと立ち去りがたい思いをするものが片隅にかかっているといったことが よくあるのですが、 この作品には、まさにそういう趣があります。」 久しぶりの鑑賞で、 まだ少し、私の心は1920年のオクスゴッドビーから 戻ってこれないみたい。 お花屋さんで、芍薬を見かけた時 それが、まあるいカップ型のイングリッシュローズに見えて 衝動的に買ってしまいました。 早速、ウィロウのピッチャーに活けます。 オルガンの音色、木漏れ日のまぶしさ、・・・ 作品を構成する小さなピースの存在も この作品ならではの美しさで バラもまたしかり。 しかも皆の視線を集める女王のそれではなく、 ‘育て手の他は 誰も見る人のいないバラ’が 物語の中で、ひっそりと香っていて まさに作品自体が、そのような奥ゆかしさの結晶なのです。 *引用した小野寺健氏の文章は、 今やその出典もはっきりとは分かりません。 何かの雑誌(おそらくラジオ語学講座のテキスト)の連載 「イギリス断章〜現代イギリスの人生と文学〜17」を切り取り、 小説に挟んでいたものです。 (2006.5.22) |
音をたててFAXが届く。 思いのまま、直に書き付けられたその気持ちは 一様に丁寧な文字のメールとも 時間をかけて綴られた手紙とも違う、 独特のライブ感。 勢いのある字や、時々くしゃっとかき消した後が 書き手の、今まさにこの時の体温をも伝えているようで、 それは、つまり、とても真実に近いところにあるもののようで、 しりきれとんぼ寸前、 ページの最後ギリギリに添えられた「ありがとう」が、 ひときわに嬉しい。 *** 今年もまた、毎日のように Keith Jarrettのピアノが 暮れゆく時間を満たす季節になりました。 週末を待たずに、少しお疲れモード。 今夜は簡単なパスタと、サラダにしよう。 蜜蝋のほのかな甘さが 香るか香らないか分からないほどの加減で 旋律ととけあって 届けられたまっすぐな言葉と共に、 私をあたためる。 (2006.5.11) |
「紅茶は断じて嗜好品ではない」 ワーズワースがそういう言葉を残した、と どこかで読んだか、聞いたことがあって 時折、ふと思い出します。 紅茶はもっと、深いものなのだと。 このロマン派の詩人にとって、 紅茶は、思索の、はたまた詩作の友とも言える 単なる飲み物以上の何か、だったのかもしれません。 イースターには少し早いけれど シナモンとレーズンの入ったイースタービスケットを焼きました。 気まぐれに遊ぶ型抜きには もちろん、桜も。 肌寒い花曇りの午後、 ミルクティーと一緒にいただきました。 お友達が旅のおみやげに、と選んでくれた茶葉は ジョン・レノンもお気に入りだったそう。 彼にとっても、紅茶は特別なものだったのでしょうか・・・ 粉の味を噛みしめるようなイースタービスケットと 熱く、濃い、ミルクティー。 ジョン・レノンの曲の中でも とりわけ好きな「WOMAN」が 頭の中を流れていきます。 週末には、岡山の桜も満開になるでしょう。 (2006.4.06) |