英国小景
Honey Windy Morning
今日もまた、風の音で目が覚めた。
カーディガンを羽織り
絨毯の敷き詰められた急な階段を
一段一段 降りてゆくと
彼女はたいていキッチンだ。
よく眠れた?
今日の予定は?
手際よく整えられてゆく朝食の席で
私が熱いミルクティーをすする頃、
彼女はいつも窓辺に立って 一服する。
そして肩をすくめて 言うのだ。
「今日も風が強いわね」
夜のうちに雨も降ったのだろう。
庭の緑は濡れそぼり
木の葉が数枚 窓枠に貼り付いている。
私はトーストに蜂蜜をぬりながら、
黄色くざらついた蜂蜜をぬりながら、
いつも同じようにあいづちを打つ。
「この国のこういう天気も好きだから・・・」
ティーカップの中に
パンくずがぽろりと落ちる。
熱く濃いお茶が 体の底にしみ込むように落ちる。
「でもプラムの実が落ちてしまうのは残念だね」
* * *
今日もまた猛暑を予感させる
陽のあたるダイニングで
汗をかきつつ ぼんやりと
トーストに蜂蜜をぬっている7月の朝。
寒くて風の強かったあの夏に
温かく静かだった彼女との時間に焦がれ
一瞬 蝉時雨も遠くなる。
Beaconsifield 1998