家族の情景
・ストロベリーシェイク 2003・
娘の一歳半検診の帰り、
どっと疲れが出て なにか甘いものが欲しくなった。
ショッピングモールに寄り、
昨年の今頃、シェイクを飲んだその場所で、
今年もまた、ストロベリーシェイクを注文する。
去年は ほんのオチビさんだった娘も
いまや いっちょまえに椅子に座って
大きな紙コップを両手に抱えている。
とはいえ、まだまだ一才児。
ストローで重いシェイクを吸い上げるのは大変だろうと、
手伝おうとしたその矢先、
さらりと、と彼女はそれを飲み、
にやり、として私の方を向いた。
“ひとりで 飲めるもん”
とでも言いたげな得意げな表情。
大きくなったね・・・
無事に検診を終えた安堵と、
元気に成長している嬉しさが
あらためて、胸いっぱいに広がり、
私もまた、その冷たく甘い喉ごしを
一年ぶりに楽しんだ。
大きくなったね!
(さっぱりしたホームメイドのストロベリーシェイク。
「これで今年の苺は最後です」
売り場にそんな札がかかるまで 今年は本当によく作りました。)
・こんな楽しみも・
買ってあげてもいいかな、と思っていた。
臆病な彼女が、唯一積極的に楽しめ、
公園ではもちろん、
お友達の家にある室内用のミニサイズのものも
飽きることを知らない。
この子がそんなに好きなのなら、買ってあげてもいいかな・・・
すべりだい。
「とても好きなものが、手元にないということも
また、楽しいことだと思う」
彼のそんな一言ではっとした。
どんなに好きでも
それを所有してしまうと
その瞬間に、その特別感や憧れはちょっと遠のく。
楽しみが日常になると、それに飽きることもあるだろう。
公園に行けば すべり台ができる。
早く滑りたいな。待ち遠しいな。
そう思う時間もまた、楽しいひとときのはずだ。
手元にないからこそ、の楽しみもある。
そんな楽しみもまた、知って欲しい。
「室内サイズとはいえ、我が家にそんなスペースもないしね」
彼が笑ってそう続けた。
彼に、感謝。
・Trio・
娘はタンバリン
旦那さまはカスタネット
私は鉄琴
6月23日 夜。
はじめての合奏は
「カエルのうた」「ぶんぶんぶん」「オバケのうた」など
すべて歌つき、時々、ダンスつき。
予定時間を大幅に延長した盛況ぶりにて
幕を下ろす。
・試練、試練・
スーパーでお買い物をしていると
お菓子にも、ソーセージにも、ふりかけにも
アンパンマン!
検診にでかけたら、体重計の前に
アンパンマン!
コンサートにいけば、
アンパンマンのお歌!
本屋にも、洋服屋にも、
アンパンマン!アンパンマン!
今や、子供が行くところ、
アンパンマンが出現しないところは皆無だ。
アンパンマンが怖くて仕方ない娘には、気のおさまる場所がない。
これは キミ史上最大の試練だねえ!
でもね、
アンパンマンがいくら正義の味方とはいっても
私は キミの味方だから、
どこまでもキミを応援するよ。
♪愛と勇気だけが友達さ♪だなんて、
正義の味方にしては ちょっと寂しいよね。
そんなこと言わずに
キミはもっともっといろんなものを友達にして
人生の試練を乗り切って。
・黄色い長靴・
「親があれこれ意見を変えると 子供は混乱するのでやめましょう」
ものの本には、そう書いてあるんだよね。
私もそれを読んで、ふむふむと納得はしたの。
でも
長靴はいて「ハイハ〜イ」って赤ちゃんの真似したり、
テーブルの周りをぐるぐる回ったり、
足を投げ出して絵本を読んだり、
あまりに楽しそうなんだもの。
室内でずっと履いているのに
「お靴は外で、って言っているでしょう!」
いつものセリフを思わず飲み込んでしまったよ。
内側に書いてある名前は
譲ってくれたお姉ちゃんのものではないから、
きっと、いろんな子供達とわくわくした時間を過ごしてきた長靴なんだろうな。
そして 今。
雨の日でなくとも、これを履いてお出かけ。
それくらい、娘はこの長靴が気に入っています。
(ときどき、左右逆に履いているんだけどね!)
・眠りにつくまで・
「きょうは・・・」
ベッドにふたり転がって、
そんな風に、一日の終わりがはじまる。
灯りはほとんど落としているので
お互いの顔がぼんやり見えるくらい。
「今日は、朝、お買い物に行ったね」
一瞬、遠い目をして
「ジュース!」と娘。
そう、今日は買い物先でジュースを飲んだ。
「ぴーちゃん!」と娘。
そう、ジュースを飲んだ広場の近くにツバメの巣があり
娘はそれを、ぴーちゃんのおうちと言うのだ。
「あかちゃん!」と娘。
そう、ぴーちゃんに会いたくて、巣の下あたりをうろうろしていたら
ベビーカーに乗った赤ちゃんがやってきて、しばらく遊んだのだ。
今日はそんなお買い物だった。
ふたりいつも同じ行動をしていても
覚えていること、思い出すことは違って
こうして一日をベッドの中で反芻することは
なかなか楽しい。
彼女の言っていることが分からず
ああ、と後で膝をうつことも多い。
「今日は、ぐりとぐらの本を読んだね」
「どんぐり!」
そう、表紙にどんぐりが書いてあるのだ。
「もう、ない〜」
?
私は考えこみ、そして気がつく。
昨秋から 私はドレッサーにどんぐりを飾っていて
よく娘を抱っこして、それを見ていた。
春が来て、ひびの入ったどんぐりを何気なく処分したのだけど
どんぐりが突然なくなってしまったことが
娘は本当に不可解そうだった。
「どんぐりはもうないね。でも・・・」
何度、そう言ったことだろう。
しばらく考え 彼女の言いたかったことに気がつくと
娘は本当に嬉しそうな顔をする。
「もうないね。
でも、秋になったら又、拾いに行こう。」
あわただしく過ぎていった時間を
ようやく静かに思い出しながら
暮れてゆく一日。
ゆうらり、ゆうらり回る羊のモビールを眺め
いろんなことを思い出すうちに、
娘の瞼はとろん、と重くなってゆく.
そして又、わたしもそのままとろとろと
眠りについてしまうことも多いのです。
good night
(2003 7.13)