Blue willow のある食卓
    ーEveryday with Bluewillowーー






    春休み 



    *レシピノート*

    確か私も、高学年の春だった。
    はじめてのレシピノートは
    マンガ雑誌の付録のとっておきの一冊。

    表紙をめくり、きれいに折り目をつけて
    忘れもしない。
    まず書きつけたのは、キャロットケーキのレシピ。
    レシピノート!
    そこにはすてきな胸の高ぶりがあった。

    娘の初めてのレシピノート。
    1ページ目には
    今、作ったばかりのバナナブレッドのレシピが書き込まれている。


    *豆腐屋とさくらパン*

    いわゆる、お豆腐やさんのラッパというものを知らない。
    私が知っている豆腐やのおじちゃんは
    ファンファーレと共にやって来た!
    錆びかけたラッパから、押し出されるような
    詰んまり詰んまりのファンファーレではあったけれど。

    週に二度ほど、お昼前。
    おじちゃんはバイクでやってくる。
    住宅地の路地に、豆腐の入った木箱を並べて
    大きな声で歌まで歌う。

    春休み。
    母について、お豆腐一丁買いに出る。
    木箱の横には
    ちょっとしたお総菜や、菓子パンも並んでいて
    桜色の生地にこし餡がくるまれた「さくらパン」は
    おじちゃんの一押しだった。
    数十年ぶりに、似たような菓子パンを見つけて
    懐かしさに手が伸びた。



    春には特有の「所在なさ」がある。
    さくらパンがおやつだった頃からそう感じていた。
    春休みで単に退屈しているからというわけではなく、
    なにかを持て余してしまう空気感のようなものを
    この季節自体が持っていると。
    五味太郎さんの絵本、「春」の表紙には
    その空気がそのまま流れている。
    「そとは ただ 春」にも流れている
    春の空気。


    おもては明るく、春風が吹いているけれど
    室内はまだ少し気温が低い。
    窓から半分見えている女の子は、私?
    ぽつねんと、所在なく、
    春。

    *シェパーズパイ*

     


    英国から知人の家族が来日されて
    夜が更けるまでの英国談義。
    イギリス英語の響き、リズム、言い回し・・・
    まるで懐かしい音楽のよう。
    全身とっぷり浸かり、ふくふくと満たされ、
    そして、自分の指針を確かめさせてくれる。

    その余韻も覚めやらぬ頃、
    シェパーズパイを作った。
    Shepherdとは、羊飼いのことで
    皆との食事会でも話題に上った英国の伝統料理。
    オリジナルは羊肉を使うけれど
    今日は合い挽きで代用。
    これまた英国発祥のウスターソースで味を整えたミートソースと
    なめらかなマッシュポテトを重ねて
    こんがりと焼き色がつくまでグリルする。
    花冷えの夜に嬉しい
    あたたまる一皿。


    *「大和路」を淹れて *



    いろいろなことが、変わる。
    春はそういう季節だ。
    だから、妙にざわざわする。
    そんな心を鎮めるように
    旅先で求めた珈琲を飲む。


    今日、明日、あさって・・・
    一杯ごと
    新しさになじんでいけばいい。



    (2012.4.08)



    子供同士


    ママ、なにつくってるの〜?
    いいにおい〜。
    おいしそう〜。


    キッチンの入り口で愛車を止める2歳男児は
    幼いながらに、女ゴコロをくすぐる言葉を心得ていらっしゃると見える。
    でも、油断ならないからご用心。
    そんな甘いセリフを吐きつつも
    口にしたものが気に入らなかったら、
    情け容赦一切なし。
    さっさとそれは吐き出され、
    口は二度と開けられることはない。
    苦手なものを、出すことも、飲み込むこともできず
    涙を浮かべながら、永遠にもぐもぐしていた娘とは
    まったくもって、大違い!





    そんな息子、
    乗り物や、工事現場に目を輝かせつつ、
    おままごともお人形遊びも大好きだ。
    くまちゃんはじめ、家のぬいぐるみ達には
    顔を寄せて、ほおずり、あいさつ、「あのね」のおしゃべり。
    彼なりのそんな愛情は
    蜂蜜の瓶のクマさんにも
    おひなさまにも等しく注がれる。





    かと思えば、
    そのおひなさまが飾ってあったコーヒーテーブルにぶらさがって
    あわや!で、大目玉。
    上れるものがあれば、上る。
    ぶら下がれるものがあれば、ぶら下がる。
    世はそのようなものだと理解されているご様子で。




    春めく陽射しの午後。
    姉と弟が歌っている。
    今はまだこうして二人、声を合わせているけれど
    年の差は、8つ。
    そう遠くない未来に、姉は思春期を迎えるであろうことを思えば
    こんなふうに、二人が無邪気に子供同士でいられるのは
    あとどのくらいなのだろう・・・
    つい考えてしまう。


    歌声が止んだかと思うと、
    二段ベッドの上にブロックの箱を運びこみ、
    くすくす、きゃっきゃっ
    賑々しいことこの上なし。
    そして時折、競うように声がかかる。
    「ママ、見て、見て、見て〜!」



    (2012.3.11)