Blue willow のある食卓
    ーEveryday with Bluewillowーー






    9月初旬、合唱コンクール中国地区大会の朝、
    慌ただしく身支度を整えながら、
    ざっと朝刊の一面に目を通す。
    紙面下の随筆は、夏の終わりについてだった。
    真夏の灼ける太陽の下でのできごとが
    この時期、特別な記憶となって胸底に沈んでいく、と。
    「沈み切るまでのさざ波が、いわば晩夏の感傷なのだろう」*1


    連日、海にいた。
    それはもちろん嘘ではないけれど
    実際の私が連日いたのは、体育館。
    それも室温35℃を越す体育館だ。
    合唱部の子供達32人と過ごした2013年の夏。
    あまりの暑さに体調を崩す子供が続出した。
    県大会の前日は、私自身が倒れこんだ。
    それでもどうにか、
    日々を重ね、
    県大会をくぐりぬけ、
    中国地区大会へ駒を進めることができた。
    いよいよ、本番。


    ♪忘れられない歌がそこにある
    手と手をつないで口ずざむ♬*2

    コンクールの課題曲「ふるさと」には、
    こんなフレーズがある。

    本番の舞台では、
    実際に部員達が手と手を携えて歌うことになった。
    ピアノの前奏が始まり、
    歌いだす直前、
    さあ、っとブレスをしたところで、
    32人、手をつないで歌いだす。

    その姿を見ただけで、もう十分だった。
    真夏の体育館が、ひたすら歌い続けた旋律が、
    その濃い時間こそが
    紛れもなく部員みんなの‘ふるさと’になっていることが
    伝わってきたから。
    賞には届かなかったけれど
    涙が止まらなかった。
    あなたたちの「ふるさと」が歌えたね。
    この日の為に一緒に奔走してきた役員さんの目にも
    涙が光っていた。


    コンクールが終わって、ようやくベランダの朝顔が咲いた。
    秋空の下、遅くに花をつけた
    すっきりと青い夏の花を
    まるで同士だ、と仰ぎ見る。
    沈みきらない夏のさざ波が、
    まだ私の胸にもたったまま。
    胸底に沈むまでには、もうしばらく時間が要りそうだ。


    「ほんとに、ほんとなの?」
    「きょうは、たいいくかん 行かないの?」
    体育館を遊び場に駆け回り、
    歌も全て覚え、一緒に汗をかき、
    つまりは、自分もいっぱしの部員のつもりだった息子は
    コンクールが終わり、
    あれほど毎日聞き続けた歌の時間に終わりが来た事が
    まだよく理解できていない。
    当日、存分に悔し涙を流した娘は、
    さっぱりした表情で、新しい季節を見ているというのに
    彼はまだ、たずねてくる。
    「ほんと、ほんとに、歌はもう終わったの?」
    ここにもまた、同士がひとり。





    夏練習が始まったばかりの頃に焼いたパウンドケーキ
    マンゴーに、パイナップル、ぶどう・・・
    紅茶漬けのさまざまな夏のドライフルーツが
    きらきらと、輝きを放っている。
    32人の輝きに触れ、
    夏の時間が私自身にとっての「ふるさと」にもなりました。
    ありがとう。


    忘れられない歌と、忘れられない夏の思い出に・・・



    *引用部 
    朝日新聞 「天声人語」9月7日 朝刊



    (2013.9.30)2



    最後の頁に辿り着けたのは
    8月も最終週。
    まだまだ、と覚悟を決めていただけに
    拍子抜けしてしまうほど
    涼しい風の吹く朝だった。


    一緒に「Alice's Adventure  in Wonderland」を読み始めたのは
    娘が物語に夢中になった5年生の終わり、
    春休みのことだった。
    慌ただしい6年生の日々が始まると
    普段は、読めたり、読めなかったり。
    半分以上を残したまま夏休みに入った時、
    休みの目標として、読了を掲げたのだった。


    そうと決まれば、これまでのように、
    二人で一冊を覗き込むのは、効率が悪い。
    もう一冊、と探して、
    草間弥生氏が画を担当している
    Penguin Global版を見つけた。
    夏らしいビビッドな色使いに
    浮遊する無数の水玉たち。
    既に、ワンダーランドの趣だ。
    以前より愛読していた、定番テ二エルの挿絵の版と併せ、
    一人一冊、不思議の国を携えて
    夏の扉が開かれた。


    小学校最後の夏休み、
    果てしなく思われた長い夏の日々も
    確実に暮れてゆき、

    果てしなく思われた本のページも
    少しずつ減っていった。
    そして、8月の最終週、
    風に秋を感じた朝、
    いつも傍らにあった麦茶やアイスコーヒーのグラスが
    ウィロウのカップに変わった。
    ついに、アリスが夢から覚める時がやってきたのだ!

    カラフルだったページからも、
    色が、消えた。





    もうひとつ、夏のアリスの思い出は
    英国ロイヤルバレエ団のアリスだ。
    お休み中に、一体、何度DVDを観ただろう。
    ラベンダー色のアリスも、彼女を取り巻く個性派陣も、
    舞台も、振り付けも、音楽も
    全てがとにかくチャーミングで
    一秒足りとも目が離せない。
    現代の作り手達のイマジネーションを刺激して
    ここまで世界を広げることのできるアリスの物語って、
    やっぱり、素晴らしい。


    因みに、アリスが不思議の国の迷い込む時の音楽は
    娘のこの夏のテーマ音楽に!
    旅先で青い海がぱあっと広がった時、
    島を結ぶ巨大な橋群に息を飲んだ時、
    目標達成して原書を読み終えた時も、(ん?)
    夏休み帳を終えた時も、(えっ?)
    夕食に好物のおかずが並んだ時も、(ええっ?)
    なんだか、気持ちが大きく動いた時には
    我が家に娘が口ずさむこのメロディーが流れたのでした。


    (2013.9.14)