冬時間
7歳児の情景
*たからもの*
「観覧車でラブラブ、っていいんじゃない?」
「いいね、いいね」
上気した声が子供部屋から漏れてくる。
女の子同士、いわゆる‘サイン帳’というものが流行っていて
自分のプロフィールや、好きなものごとを書き合っている。
サイン帳にはおしゃまな質問の項目もあり
「理想のデートのすごしかたは?」なんて質問に、
盛り上がっているというわけだ。
全く、お友達が帰れば
アタックってなあに?しつれんってなあに?なレベルなのに
したり顔で「いいね、いいね」たあ、
ふてえ野郎だ。
でも、聞いちゃった。
ラブラブの次の質問、「たからものはなに?」に
「おかあさん」って、答えていたことを。
泣かせる野郎だ。
*大好きなのは*
1年生ももうすぐ終わる。
顔見知りもほとんどいない小学校への進学に
気を揉んだ一年前が嘘のよう。
入学以来、娘は一日たりとも休むことなく嬉々として学校へ向かい、
学校大好きとおっしゃる。
ほお。
「それで、何の科目が好きなの?」
「図画工作、音楽、体育!」
・・・そのクチですか。
*しゅん・・・*
「あれ、今日はお嬢ちゃんは?」
久しぶりのお店のレジで、そう尋ねられた。
娘が小さい頃は割と頻繁に訪れていたお店だ。
「ふふ、学校ですよ。小学校」
レシートを受け取りながら答える私。
もうそんなだっけ?と
目を丸くする店員さんに笑い返していたはずなのに。
当たり前じゃないですか、と笑っていたはずなのに。
「そうよね、いつまでも小さくはないよね」
そんな言葉と、買い物袋とを受け取りながら、
なぜか、しゅんとしている私がいる。
自転車に積み込むのが荷物だけだという事実に
しゅんとしている私がいる。
*そろそろ卒業*
こんな風に出会って、6年が過ぎた。
あんな事件もあったっけ。
ともかく、どこへ行くにも一緒で大切にしてきたポシェットだけど
さすがにもうそろそろ限界だね。
肩ひもをギリギリまで調節しても
きつくて 身動きとれなくなっちゃった。
入りきらないくらいの思い出を胸に
卒業の季節。
お顔と同じくらいの大きさ!
やっとこやっとこ歩いていた1歳のころ。
*バレエ*
この春、娘は二度目のバレエの舞台に立つ。
一度目の時は、まだ年長さんで
おちびさんクラスの中でも、とりわけおちびさん。
おねえちゃん達について ただ楽しく踊ることだけを考えていたらよかった。
でも、今度はそうはいかない。
おちびさんクラスの中では、おねえちゃんの立場なのだ。
自分で音をとる、先頭で躍り出る、小さい子の立場を考える・・・
頭を体をめいっぱい使って、
何倍もの責任感と緊張感が必要だ。
今まさに練習の真っ最中で
レッスンの度に先生の檄はとぶ。
たった三分ほどの舞台のために、
半年も一年も、同じ踊りを繰り返す。
たとえ本番で緊張しても、舞い上がっても、頭が振りを忘れてしまっても
ひとたび音楽がかかれば、体が自然に動くように、
ただひたすらに同じ練習を繰り返す。
もちろん毎日、家でもおさらいをするけれど
それがスタジオで活かされなかった時、
少しでも集中力がとぎれた時、
厳しい指導が待っている。
こんな風にして何かを習得したことは、私にはなかったと
ため息をつく思いだ。
バレエの技術だけを習う為だけに バレエを始めたわけではない。
言ってみれば、バレエなどずっと続けていけるわけはないと知っていても
バレエというものを通じて、
きっと沢山のことを学べるだろうと思ったからだ。
今、ちょうどそういう機会を与えてもらっているという気がする。
どんなことも糧に変えて、
舞台の日を迎えられたらと思う。
*大人なら判るのだ*
店先のこと。
「大人は判ってくれない」のポスターを
まじまじと眺め
‘判って’という漢字の読み方を知るや否や、
我が意を得たり、と大きく頷ずいている娘。
もしかして「大人は判ってくれない」って思ってる?
ドキドキしながら聞いてみると、
即答でそうだと言う。
例えばどんなこと?
「だって、大人は夜になると嬉しそうに寝るでしょ!
夜に寝なくてもよかったら
ずっと遊んでいられるのに・・・
どうして大人は寝るのがそんなに楽しいのか、
ちっともわからない!
私は寝たくない!」
そういえば、私もそう思っていたこともあったなあ。
遠い遠い昔のことだけど。
*夢*
宿題の漢字練習帳を開いたまま、
突然、娘が声をかけてきた。
「ねえ、ママ!」
「なあに?」
「今、この幸せな暮らしって夢じゃないよね?」
夢ではないけれど、
夢なのではないかと、
私も時々、不安になるのよ。
夢ならどうか覚めませんように。
(2009.2.28)