Blue willow のある食卓
ーEveryday with Bluewillowーー
紅玉の季節です。 小ぶりできゅっとしまったボディに ニュアンスのある紅色・・・ 我が家は皆、火を通した林檎が好きなので 生以上ジャム未満といった具合に煮ておくと 朝食に、おやつに、息子の離乳食に あっという間になくなっていきます。 今日はひと手間かけて、 煮林檎をカスタードクリームと一緒にクレープに包んで。 窓の外は強い風。 木枯らし第一号が、なんてニュースが届き始めると 娘の誕生日が近づいてきたことを感じます。 プレゼントは・・・ケーキは・・・ 林檎を煮るあまずっぱい香りが広がってゆく中、 嬉しい想いも巡ります。 彼も来月1歳に。 梨と林檎の違いはあれど こんなお方、いつかどこかで見たような・・・ (2010.11.07) |
‘小さな家が一列に並んでいるところまで来て
アンナは、ちょっと止まって息をつきました。 どの家も、まだカーテンがしまったままでした。 低い柵ごしにかがみこんで、 小さな家の庭でゆれているダリアやグラジオラスを見ていると 急に風がやんで、家の中で七時を打つ、太くて低い時計の音がきこえました。 それは、とてもゆったりとして気持ちのいい、家庭的な音で アンナに日曜日の午後を思い出させました。 日曜日の午後のお茶の時のゆで卵、 はちみつのついた熱いスコーン・・・・。 あまりに気持ちのいい音なので アンナは、ほんのちょっとの間、 自分がどこにいるのか忘れてしまったほどでした。’*
*「思い出のマーニー」
(2010.10.30) |
毎年、結婚記念日がやって来る頃には、 結婚式を挙げたBeaconsfieldの町、 アンと暮らした森に近い家のことを思い出します。 9月の終わり、イギリスの秋はもはやはじまりとは言えません。 私の部屋の窓からは、森の木々を望むことができ グレイの空のキャンバスに 赤、黄、茶、オレンジ、それから常緑樹の緑・・・ 深まりゆく秋の絵筆が、日々、新しい景色を描いていくさまを 眺めていたものでした。 こんな色彩豊かな季節が巡りくると 物語の世界に遊びたくなります。 表紙もまさに秋の色、 「チップス先生の贈り物〜英文学ゆかりの地を訪ねて〜」(春風社)は 英文学ゆかりの地をめぐる珠玉のエッセイ集。 エッセイの一遍、一遍が輝きを放ち、 まるで一粒、一粒のきらめく石を繋ぎ合わせたような一冊です。 原作をじっくり読み込むのとはまた違った楽しさ、 この作品自体がひとつの世界を持つ、読み応えある文学と言えるでしょう。 著者の長井那智子さんはあとがきにこう書かれています。 ‘イギリスを知ろうと思うなら、イギリス小説を読むことをお勧めしたい。 小説は、人間の喜びや悲しみを生の声で聞かせてくれる。 特に、長いあいだ読み継がれる作品には、 書かれた時代に生きた人々の正しい主張がある。 読むことの大切さをかみしめ、今は亡き偉大な作家との会話を楽しんでほしい’ 初めて手にした時から、通して読むことなんてもったいなくてできません。 折りにふれ、心に添う一遍を選び、 言葉を噛みしめるように、味わうように、 ゆっくりゆっくり読んでいます。 言葉はじっくり味わえても、 そうはいかないのが、美味しいもの。 秋は食欲の季節でもあるのですから、こちらはなかなか難しい! 一応スライスはしてみるものの、 焼きたてバナナブレッドの行方は・・・えっとえっと。 Beaconsfildの結婚式から12年が経ち、 ウィロウとのお付き合いも12年になりました。 アンティークのカップ&ソーサー以外は、 ディナープレートも、ケーキ皿も、スープボウルも ほとんどがファクトリーショップで求めた普段使いの品々。 12年間、日々の暮らしを共にしてきましたが 使えば使うほど、思い出も重なり、愛着も湧いてきます。 家族の歩みと共に、季節の巡りと共に、 これからも、きっと、ずっと。 (2010.9.21) |
「もう、きんぴらないの?」
夏休みのお昼どき。 お休みといえど、クラブ活動のために毎朝8時すぎ登校。 午前中、めいっぱい歌を歌ってくる小学生に 暑くて食欲がわかない・・・ なんてことはないらしい。 いろいろ野菜を甘めのきんぴらにすると 丼仕立てにして もりもりもりもりたいらげた。 「きんぴらはもうないけれど、まだお腹が空いているなら・・・」 こんな時のためにと冷凍庫で待機している アレやソレが思い浮かぶ。 お肉やさんのメンチカツは冷凍食品ながらジューシーで美味しいし、 生協のシュウマイだって いつもは娘も好んで食べるお助けの一品なのだ。 「メンチカツ、揚げようか?シュウマイもあるけれど」 「私は、きんぴらが食べたいの!」 あえなく、一蹴。 困り顔をつくりながらも、その表情はどこか自慢げでさえある。 「そんな幼稚園児のおかずみたいなものは 気分じゃないんだよねえ。 お野菜が食べたいっていうか・・・」 まあ、なんという風の吹き回し。 心の中で思わず吹き出しながらも 「へえ、味覚も成長してきたんだね。」と 明日もまた、きんぴらを用意することを約束する。 うふふ、こんな頃もあったのにね。 ゆらゆら、ゆらゆら・・・ お昼の用意も整い、ベランダに出る12時半。 太陽が容赦なく照りつけるアスファルトの道は ゆらゆら茹だって見える。 そんな中、自転車が戻ってくる。 少し大きめの自転車を、慎重にこぎながら 暑さと疲れでゆらゆらと 真っ黒に日焼けして帰ってくる。 今年は小学校の合唱クラブに入った娘。 記録的な猛暑の中、サウナみたいな体育館で くる日も、くる日も、 歌い続けた夏休み。 県大会で金賞をいただき、 夏の終わりには中国ブロック大会へ。 大きな舞台で 魅せてくれたチームワーク、 聴かせてくれた美しいハーモニー。 何十回となく聞いてきた旋律に 思い出されるのは 毎日の光景。 12時半のゆらゆらの光景。 目の前の子供達も ゆらゆら涙でかすんでいく。 残念ながら中国ブロックの先へは進めなかったけれど 悔し涙をいっぱい流したのあとの子供達は 清々しい笑顔で すぐにまた、ハミング! みんな本当にいい顔してる。 そうこなくっちゃ。 「音楽は競争ではありません」 先生もおっしゃってたね。 競争ではないけれど、 コンクールという目標を掲げて歩んできたことで みんなの歌はどんどん研ぎすまされ、 音楽は素晴らしく育っていった。 熱い夏を、どうもありがとう。 |